全対象年齢


目をつむって最初に浮かぶものはなに?
有里はなにを思ったか俺にそんなことを問いかけてきた。ごとーが遠くで苦笑いしてる。俺はアイスもらいにきただけなんだけどな。

「……暗闇…?」

アイスの袋を破りながら、そう答えた。そうすると、おそらくっていうか、やっぱり、有里はため息を吐く。

「ほらーやっぱりそうじゃん。ね、後藤さん」

正直に答えただけなのに、俺は知らないところで悪役になっていた。ごとーはあいかわらず苦笑いを絶やさない。はは、じゃないでしょ。
なんのはなし?って聞き返すのもおっくうで、俺はアイスに夢中なふりをした。有里は雑誌を一冊よこしてくる。

「これ心理テストなの、達海さん」
「そー」

なぞなぞか、クイズか、俺はそっち方面に考えてたから、これは一生当たらない問題だった。有里、おまえもいっちょまえに女の子してるんだねえ。ごとーが相手じゃ、心理テストもつまらないだろうに。まあ、俺だってそうだろうけどさ。

「『想い人の特徴や習慣』なんて、暗闇じゃあねぇ」
「まあ、達海だしなぁ…」
「恋愛について達海さんに訊いたのが間違いだったのよ。達海さんの恋人はフットボールよね」

恐ろしく失礼なことを言ってのけた二人に、なすすべもなく俺はだんまりをきめこんだ。俺だって35年生きてるんだなんて、言い返す元気もない。

「…じゃあ、二人は、なんだったの」
「え?あたしは『仕事』」
「俺は『コーヒー』だった」
「……」

ワーカーホリック達め!
俺とたいして変わんないじゃん。そう言うと、とっさだもの。と返された。所詮占いなど当てにはならないと身を持って実感しただけだ。これはいったい誰に対して作られた占いなのか。少なくとも、成人には向かない。


部屋に戻って、アイスをぱきんとふたつにわった。二人で仲良くはんぶんこ、なんてする歳じゃあもうない。恋人はフットボール。有里の言い分もまんざら外れてはいなかった。足元に散らばる書類やDVDは、すべてフットボールのものだった。アイスの片割れを口にほおばって、その場に座り込む。
目をつむって初めに浮かんだのは、やっぱり暗闇だった。とっさに思いついたのは何者でもない、真っ黒い空間だけ。夢のない人間だ。俺は想像力に欠けていただけか。やっぱりねって、どういうことだ。
外はずいぶん暗かった。
もう片方のアイスがしずくをたらしている。
目をつむるとやっぱり暗闇だった。
有里やごとーが言ったように、フットボールや書類やらDVDの山が浮かんだわけではなかった。少しだけ自分の想像力を呪いながら、なんとかして暗闇をやっつけてみようとおもったけど、すぐにやめた。その必要はもはやなかった。

あたまの…ではなく、耳の遠くのほうでボールの音を拾っていた。
只今午後七時。
聞き慣れた音が、暗闇の中でピッチと俊足の想い人が駆けるのを、いとも簡単に脳内につくりあげてみせていた。






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テーマ「人外ファンタジー」
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