250g


何時間も画面とボードとのにらめっこの末、見上げた先に15:07。三時間くらい格闘して頭をめいっぱい働かせていれば、そりゃ腹も減ってくるわけで。

「つばきー、今からコンビニ行くけど、ついてくる?」
「よっ、よろこんで!」

俺の斜め後ろでじっと三角座りしてた椿に声をかける。俺とおんなじ分の時間、椿はただひたすら俺の邪魔しないように、って大人しくしてた。そりゃあ疲れるよな。嬉しそうに返事した。
外はあいにくの雨。さっきまで雪が降ってたのに。もったいない。そう思ってんのは俺だけじゃなかった。椿は歩きながら、うっすらと雪の残る場所を、わざわざ踏みにいってははしゃいでいる。椿の足跡がふらふらいったりきたりしてて酔っ払いみたいだ。おまえ、ほんとにハタチなの。小学生にしかみえないよ。もしくは犬か。

「椿雪すきなの?」
「オレの実家、結構積もるんで、つい」
「こっちはあんまり降らないもんねえ」
「オレ、玄関前の雪どけ係でした」

子どもがそのまんま大人になったみたいなやつだ。あまりにも嬉しそうだから俺も、転けないでね、としか言えなかった。

「あ、今年はうちの姉の、彼氏さんが手伝いにくるって言ってたっス」
「ええなに、そんな降るの」
「はい、いつも一家総出で、近所の人たちと一緒になって、やってるん…ス…」

椿の声が消えたから、なにかと思って振り返ると、椿が何かをじっと見てた。つばき、って呼んだらすぐに駆け寄ってきて、何でもないです。だって。ちょっとだけそわそわしてるけど、気付かないふりをして歩き出した。

「今日、雨、止むといいですね」



ドクターペッパーと、Jリーグチップスとタマゴサンドを選んだところで、椿を呼んだ。椿はサッカーマガジンを買おうか買うまいか思案してる。倹約家なんだねえ。物欲があんまりないんだからそういうとこは我慢しなくてもいいのにと俺は思う。変なとこでストイックでおもしろい。椿の持っていた雑誌を奪って、レジへと向かう。

「今日は俺が奢ってあげよう」
「え、いや、でも」
「おとなしく買ってもらうべきだよ、こういうときは」
「……すいません、」
「あ、あとさ」
「は、はい」
「なんか食うもんいらない?」

そう言ったときの椿のかおといったら。嬉しそうなの丸出しだけど、ちょっと困ってる。なにが言いたいのだろう、これは。嬉しいのかな。それともだめなのかな。それでもすぐに椿はやっぱり、と頭を横に振った。

「でも、マガジン買ってもらうのにこれ以上はとても…!」
「雑誌で腹は膨れません」

それくらい買うだけに遠慮なんかされてもなぁ。はやく、と急かすと椿は少しの間考えた後、小さい声で、チョコレートがいいです、と呟いた。

「それだけでいいの?」

椿は恥ずかしそうに小さく頷く。そして、一番安いやつでいいので。とつけ加えた。どこまで謙虚なんだか。いい子だねえ、君は。椿に買うものを預けて、チロルチョコを両手に一掴み、レジへと向かう。チョコは全部で18個あった。お、背番号。椿はそんなにいっぱい大丈夫っす、と慌てていた。いーの、俺が買いたいと思ったんだから。

椿が持つといってきかなかったので、レジ袋は椿が持っている。でも、すごく嬉しそう。そんなにうれしいんだったら、もっと買ってあげたくなるけど、多分椿は恐縮するんだろう。孫がいる気分だ。うわ、俺も老けたのかな。
微かな雪に、足跡がたくさん残っていた。ふと顔をあげると、さっき、椿が立ち止まっていたところ。ショーウィンドウには華やかな…あー、なるほどね。今日だったんだ。
椿の笑顔を思い出しておもわず笑ってしまった。そうすると、斜め後ろを楽しそうに歩いているだろう恋人の姿が、こんなにもいとおしくなる。

「つばきー?」
「っ、はい!」
「俺は一ヶ月後を期待していいわけ?」
「…!っはい、もちろん!!」

チロルチョコ18個が、レジ袋ではなく、椿のジャケットのポケットに大切に仕舞われていることを、俺は密かに知っていたりする。


(Today is 20120214)






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