プレミア座席ふたつ

(大学生パロ)




「あれぇ、どったの今日は」
「え、と。…今日、プレミアの、」
「おっし、ようこそお仲間」

「映画弁論会」。特典はサッカーチャンネル見放題。プラス、サッカーマガジン過去十年分バックナンバーが揃っています。週に一回みんなで映画のはなしをします。たまに映画観にいきます。場所は南棟第三講義室横、資料室。いつもだいたいだれかいます。興味のある方は顔出してみてください。

勧誘チラシくらいもっと映画の話しなさいよ達海会長、なんて怒られた。もちろん。会長なんて大それた役職はなまえだけ。むしろ、みんな面白がって俺をそう呼ぶ。弁論会の、おさ。つまり、歳が一番上なだけ。
俺自身映画はあんまり観ないけど、メンバーは俺を咎めたりしない。いちばんうえの俺がこうだから、みんなもたいがい好き勝手してる。基本的にみんないいやつばっかなんだ。

いつもだいたいだれかいる、っつったって、週に一日しか会は開かない。資料室を覗いたとき、ほんとに『だれか』が居てびっくりした。テレビの前で三角に丸まってるやつがぽつんと一人。知らない顔。
メンバーは俺を含め七人。顔出すたびに部屋にいるのは三、四人。今日はなおさら、集まる日じゃないのにいるんだもん。一瞬、座敷童かと思った。
プレミア戦を観に来たのだそう。かくいう俺も、目的はおんなじ。今日は二人だけのにわかサッカー鑑賞会となる。俺みたいなヤツはいるもんなんだねえ。アレか、類は友を呼ぶってやつ。
あれ、俺が書いたんだよ。椿がサークルに参加し始めて三日目。オレはあのチラシにまんまと誘われましたと正直にはなしてくれた。動機が不純で、誰にもいえなかったそう。だけど、貧乏な学生にとって、これほどありがたい受け売りはないよね。俺もかつて、あの言葉に誘われたんだ。
してなんというか案の定、このサークルにサッカー好きは俺と椿だけで、集まる日以外の日時、テレビ前を独占するのは俺に加わって椿になった。いま、右肩がくすぐったい。

「椿、次のゲームでトトカルチョやろーよ」
「オレあんまり、お金持ってないですけど…」
「ばか、俺がお金は出すの。自販まで走るの、どっちにするか賭けね」

勝利チームと予想得点、得点者をルーズリーフに書きあって試合開始。二時間後には椿が購買まで走っていた。達海さんって監督みたいですねぇなんて、もう大げさなくらいに俺を持ち上げたりするから、耳がこそばゆい感じ。尊敬の眼差しっていうんだろう。そんなお前の目がかわいくて仕方ない。なんていうの、ホラ、おっきなわんこみたいなさ。
今度生の試合観に行きましょうよ、なんてさらりと言ってのけるあたり、確信犯だろ。ここは映画弁論会だよっていじわるいうと、あっ、て。しゅんとしょげるから、余計かまいたくなるんだよね。勿論冗談。行こう、って約束をとりつけた。たぶん今俺うぬぼれてる。それくらいおまえのこと、気になってしょうがない。

「達海さん、ココア、好きでしたよね?」
「すきー」

注文し忘れた俺に、自腹でココア買ってきちゃうとこもすき。なんだよおまえ、どこの忠犬なんだよ。予想のななめうえを行っちゃうからさ、どきどきさせられっぱなしなんだ。


椿の忠誠さは他人目から見ていてもいとおしい。部活のなごりかクセか、一生懸命先輩にまざろうとするしせいはたいへんよろしい。少ない映画知識をめいっぱい使って会話に参加してくれる。こっちはもう、そんな姿にきゅんとしちゃう。そんなだから俺、会長今月皆勤賞じゃあん、なんて褒められた。

そういえば習慣は変わった。Jリーグチップスを開けると、サークルメンバーは待ってましたと獲物をねらう猛獣のごとくチップに群がってくる。そういうときだけちょっと、会長してる気分。そんでもって最近は、椿だけが俺にじわじわ近寄ってきて、カードを見せてほしいと控えめに申し出る。ふたりだけが分かっちゃう内緒ごとみたいで、今一番お気に入りなんだ。

「達海さん達海さん、オレ、もっといっぱい来ていいですか」
「うん。好きなだけおいで」

嬉しいのかなんなのか、抱きしめたクッションに顔を埋めて、やったあ、だって。それ天然なの。それとも、期待していいの。心臓が、いくつあっても足りない。

「前回の東京ダービーの対戦カードはすごかったですねえ」
「でも次はさ、キャプテン不在だからどうなるかわからないね」
「達海さんは、どう思いますか?」
「どうだろうねぇ。そういうときの監督の采配がいちばん面白かったりするからさ」

おどろくべきはホントに、椿とはフットボールの話しかしてない。それで満足なんてまるで中学生みたいだ。手と手が触れあうだけでどきどきするようなヤツ。それを二十二の俺が風邪のように引きずってる。これはもう、間違いなくやまいってやつ。

「こうやって達海さんと喋るの、毎日たのしみなんです」
「ありゃ、ほんと」
「達海さんなんでも教えてくれて、優しいし、楽しいし…オレ、サークル入ってよかったっス」
「俺も、椿がいると楽しいよ」

爆弾投下された日には、平常心を維持するのもひと苦労。ほんとにそれ、天然ならちょっとがっかりだなぁ。喜んでくれてるならいいんだけど、満足はできない。あいにく俺、待つような余裕も時間もない。真っ正面から向かうにはおそらく時間がかかりそう。でもって、椿には効果ないんだろうなあ。というより、鈍感だもん。もういっそのこと、なんでもないふりして、手でもつないでみようか。






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