君讃歌




「だいすけ、だいすけ、」




さんぽ、いきませんか。
珍しい椿くんからのお誘いを受けた。なんとまあささやかな願い事だろう、数分間もごもごした結果だった。断る理由もとりあえず見つからない、なによりかわいかったので、いいよ、と承諾する。
その後の椿くんったら、みえないしっぽぶんぶん振りながら、いそいそと準備開始。手伝うことある?って訊いたら、くつろいでて大丈夫です、だって。手伝ってあげるっていってんのに。椿くんは、ちょっとがんばりすぎだと思う。だめな意味でね。
なにしてんのかなって、キッチンに立つ椿くんをのぞくと、水筒にコーヒー詰めてた。トートバックの中身を訊くと、おにぎりがいいですか、それとも、サンドイッチですか?って。ああ、ピクニックに行くんだ。
鮭がいいなって注文したら、オレもすきですだってさ。後ろ姿がかわいくて思わず抱きしめた。椿くん、もう俺の奥さんになったらいいのに。そしたら奮発して、給料三カ月ぶんの指輪用意してあげる。

「だいすけ、だいすけ、」

トートバックの取っ手を一つずつ持ち合って河川敷。ゆっくりゆっくり歩く。途中で、ジョギングしてるひととすれ違うたびに椿くんたらはずかしそうにするんだもん。ついに椿くん一人がかばん持ちになっちゃった。つまらない。

「だいすけ、だいすけ、だい…、」
「あ、あの、持田さん、」
「なにー」

椿くんが、俺の半歩後ろから声をかけた。目的地まであと三分。足元の小石をうまくけっ飛ばしながら歩き続ける。

「な、なんですかそれ、あの、歌…オレのなまえ、」
「ええー不満?」
「いや、あの、そういうのじゃなくて」

歩くリズムにあわせて連呼。俺、椿くんのなまえすきなんだ。椿くんは黙ってしまったけど、でもまだなにか言いたげ。ちゃんと言わないと、歌い続けるからね。だいすけ、だいすけって。

「椿くんはヴェクサシオンって知ってる?」
「……いえ、」
「おんなじ曲を、何百回とくり返すだけの曲」
「……」
「ちなみに、意味は『嫌がらせ』」
「えぇー」
「あの曲、死ぬほど退屈する」

寝るのにはちょうどいいかもね。俺は、あははと笑う。そうすると椿くんはつかつかとやってきて、ぎゅっと手を握った。

「あ、あの!照れくさいし恥ずかしいので、歌うのやめてください」
「……退屈した?」
「そうじゃなくて、なまえ呼ばれるのすきだから、外じゃ誰かに聞かれるのがイヤです。…二人っきりの、特別なときに、聞きたい」

椿くんの顔は真っ赤。かわいくて、うれしくて、どうしよう、今すごくキスしたい。でもたぶん、今すると椿くん怒るだろうな。椿くんの言う、特別なときまでとっといてあげる。だから今は、手、繋ぐだけでがまん。だれもこの道、通らないといいのにね、椿くん。
そっと耳元にかおを寄せて、呟いた。


「だいすけ、」
「っ、はい、」
「だいすけ、」
「はい」
「だいすき」






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