02.14≫追記


タツバキバレンタイン









「どうぞ!カントク!!」

白い指先には美しく包装された可愛らしい赤い箱。
中身が何かなんて野暮なことは訊かないでおく。

「わあー、ありがとー」

視線を上げた先に、にこにことこちらを覗う真っ黒い黒目。

「今年は自信作です!」

ふふん、と鼻を鳴らした椿は、いつもとは見違えるほどにしゃんと胸を張って自信満々に声を張り上げた。

「去年も傑作だったよ」

中身も確認しないままそう言ったのがまずかったのか、椿は心外だと言わんばかりに眉をひそめた。でも、たぶんその通りなんだから仕方ないと思う。
ちなみに、去年はフォンダンショコラとマカロンだったと思う。有里がそういって感心していた。

「でも、今年の方が頑張ったと思うっす…」

その場で開けてくれと催促されるままに、かわいい結びのリボンを解いて箱を開けると、それはそれは美しい、芸術品が顔を出す。

「チョコレート…には違いないんだろうけどね」
「えっと、こっちの葉っぱのがジャンドゥヤで、カップに入ってるのがガナッシュです」
「ジャン…何?…へー…すごいんだねえ」

食べなくても分かるのは、これはとてもうまいんだってことで、果たしてこれがどんな材料で、どれほど手間がかかっていて…なんてのはちっとも分らない。椿はきっと一から説明してくれるけど、料理、ましてや菓子作りなんてしたことのない俺には理解できないと思う。

「…ホワイトデーは、ちゃんとお返しするから」
「そんな!これはオレが勝手にやってることなんで、あの、」
「いーのいーの、そりゃ俺だって好きな人にはお返ししたいじゃん」
「…!…あ、ありがとう、ございます」
「期待はしないでね。俺、椿みたくすごいの作ったり出来ないから」
「いえ、そんな、貰えるだけで、幸せです…オレ」

いつもの椿よろしく顔を真っ赤っかに染め上げて照れる様子を見てようやく、俺は「椿からバレンタインチョコを受け取った」という実感を得ることができるんだ。

ジャン…何とかとカップのチョコはまるで市販のそれのように美しいし、それを「少し失敗してしまったんで…」なんて絆創膏だらけの指でべそかきながらバレンタインぎりぎりに持ってきてくれるわけでもないし、ファンからや有里に貰う義理チョコに嫉妬して自信のない手作りのぶきっちょなチョコを後ろ手に隠して泣いてるわけでもないこの椿の本気の手作りチョコレート菓子の現実と妄想のギャップをかみしめながら、毎年の恒例行事になりつつあるホワイトデーのお返しを考える俺の男心は内心複雑でしょうがない。
あれ、椿ってこんな器用なことできる子だっけ…と、目を疑ったのは去年のこの日からだ。

ただ、この不思議な不思議な菓子作りにだけ伴われる椿の女子力とハイスペックぶりと異常な自信が、ぜひ本職のフットボールにも少しくらい影響すればいいのになんて親心で思う。


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