Schlussechen
布団の中に潜り込んでいても聞こえたノックの音。
ノックが三回、いつもの合図でドアが開いてダーク・レオナルドが入ってきたかと思うと紙を拾う音が聞こえた気がした。
きっと俺が描いてダーク・レオナルドにプレゼントした絵をゴミ箱から拾っているんだと思う。
俺とダーク・レオナルドが手を繋いで笑っている絵・・・
でも、今はもう手を繋いでいない・・・昨日、真ん中から半分に破ってしまったから。
少し間を置いて近づいてくる音がしてベッドが軋み、ダーク・レオナルドの重みで沈んだ。
「・・・少しは何か食べないか?」
心配そうな声でダーク・レオナルドが聞いてきたけれど、口を利きたくないし、答える元気も無かった。
それにもう全部がどうでもよくなっていたし、このまま死んでもよかった。
布団越しにダーク・レオナルドの大きな手が俺の頭を撫でるのがわかった。
「もう、3日も何も口にして無いだろ?スープを作ってみた、少しは食べてくれないか?・・・レオナルド・・・」
朦朧とする意識の中で《レオナルド》っという言葉だけが頭の中で木霊した。
「その名前で呼ぶなぁぁ!!」
俺は俺の頭を撫でるダーク・レオナルドの手を払い除けるように勢いよく起き上がりながら、力一杯叫んでダーク・レオナルドを睨み付けた。
・・・ダーク・レオナルドは辛そうな顔をしていた。
「その、名前で・・・呼ぶ、な・・・」
もう1度叫ぼうとしたけど、目の前が暗くなって途切れ途切れになって、ベッドに倒れ込んだ。
意識が遠退く中で、ダーク・レオナルドが何度も《レオナルド》っと叫ぶのが聞こえた。
それは俺を呼んでいるの・・・?
それとも・・・
暖かい液体が喉を通って胃に広がるのがわかり、
まだはっきりしない意識のまま目を開けるとダーク・レオナルドの顔が見えた。
(あ・・・ダーク・レオナルドだ・・・俺の好きなダーク・レオナルド・・・大好きな・・・)
そんなことをぼーっとしながら思っていたら、段々と意識がはっきりしてきて我に返り、何が起きているかを理解した。
ダーク・レオナルドに抱き抱えられ、無理矢理スープを口移しで胃に流し込まれていた事に驚いた俺は目を見開くと同時にダーク・レオナルドの頬を叩いていた。
ダーク・レオナルドは何も言わずに口の端を伝うスープを手の甲で拭うと俺をベッドにそっと下ろして部屋を出ていってしまった。
「あっ・・・」
思わず、ダーク・レオナルドの背中に向けて伸ばした手をもう片方の手で握りしめて抱き寄せていると外から壁をドン!っと叩く音が聞こえた。
《好き》と《嫌い》と《レオナルド》で頭の中かが混乱する・・・
《レオナルド》は俺であって俺では無い。
《レオナルド》って何なんだろう・・・
真実が知りたい。
無理矢理だったけど、飲んだスープのお陰で頭がはっきりとしてきて、さっきまで死んでもいい。なんて思っていたけれど、やっぱりちゃんと本当の事が知りたくなった。
でも、ダーク・レオナルドはきっと答えてくれない・・・そうだ・・・プレジデント、俺を見て『そっくりだ』っと言ったあの人なら知っているかもしれない。
会える保証なんて無いけれど、居場所はわかる。
俺は覚悟を決めてベッドから降りるとドアノブに手をかけた。
絶対に出てはいけないと言われたドアの外・・・
外にはダーク・レオナルドの兄弟がいる・・・
怖い・・・怖くて膝が震える・・・でも、知りたい。
俺は勇気を振り絞ってドアをゆっくりと開け、そっと顔を出した。
暗い外にはダーク・レオナルドの姿も、他の誰の姿も無かった。
2、3歩前に進みドアを閉めてゆっくりと深呼吸して歩き出すとダーク・レオナルドの兄弟に連れ出された時に見た広い部屋に出た。
そこにも誰もいなくて、ホッとした。
だって約束を破ってしまったからダーク・レオナルドにだけは会いたくなかった。
もちろん、怖い兄弟たちにも会いたくなかったけど。
ここがどの辺かもわからない、どの道を行けばプレジデントがいる所に行けるかわからなかったけど、俺は広い部屋を横切り適当な通路を進んでいった。
暗い通路を闇雲に進み続け、ついに行き止まりになってしまった。
「どうしよう・・・」
これ以上進むことが出来なくて別の道を探そうと辺りを見回すと壁に登るために付けられた様な器具を見つけた。
「上・・・?」
ここまで来たのだからもう後戻りは出来ない。そう思い、俺は上を目指して登り始めた。
しばらく登ると上も行き止まってしまったけど重たい丸い蓋は力一杯押せば動いた。
蓋をずらしていくと少しづつ光が漏れてきて、とても眩しかった。
目が慣れるのを待って這い出るとそこは色とりどりの絵本の世界のようだった。
青い空を見上げると眩しく光り輝くものが見えた・・・
「あれが・・・太陽・・・? こんなに眩しいんだ・・・」
初めて見た太陽は綺麗で眩しくて、目が眩みそうだった・・・
太陽から目を離し、辺りを見回すと絵本でしか見たことが無い木が見えた。
「あれが木・・・?!」
全てが珍しくて思わず木に向かって駆け出すと突然、体が重くなり倒れ込んだ。
誰れかが俺の上に乗っかって押し潰そうとしているかの様にどんどん体が重くなっていく。
息も出来なくて、動けないでいると誰かが近づいてくる気配がした。
「ダーク、レオっ、ナルド・・・?」
俺はそう呟きながら意識を手放した。
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