一方、オサムを探す小石川は…
「っ…なんや、頭いたなってきたな…」
小石川はオサムを探し、校舎を歩き回っていた。
しかし、あのぐーたら教師は職員室にはおらず、誰に聞いても居場所が分からなかった。
「あ、の…だめっ、きょし…」
探し回るうちに、頭痛だけに留まらず息が上がってきた。
「あかん…はぁ、っ!」
ドクンッ
「っあ…は…」
ドサッ
突如苦しみだした小石川はその場に倒れ込んだ。
ガチャ
「なんや?…って、誰や?」
小石川が倒れたのは喫煙室の前だったらしく、倒れた音に気づき、中にいたオサムが顔を覗かせた。
が、その場にいたのは小石川ではなかった。
「おい、僕、ここに何しに来てん?」
いたのは小さな子供。
しかも四天宝寺中テニス部のジャージを着ていた。
「ん…うー?」
自分を見つめる子供にオサムの動きが止まった。
「にぃちゃ、だーれ?」
「……!可愛い過ぎやぁぁあぁ!!」
更に、小首を傾げる子供にノックアウトされ、思い切り抱きしめた。
「にぃちゃ…くるち…」
「せやかて可愛いねΣグファ!」
突如のけ反り倒れたオサム。
暴走の止まったオサムの後頭部には下駄が突き刺さっていた。
「まったく…なにを幼児ば襲っとっとね?」
下駄の持ち主、千歳は小石川が部室を出た後、やはり心配になり小石川を探していたのだ。
そしてオサムの犯罪現場を目撃した。
「にぃちゃっ…ぇっぐ…」
突然倒れたオサムを見て子供は泣き出してしまった。
「泣かんでよかよ。
ほーら、高い高ーい」
千歳は子供を抱き上げ、数回上下させた後、肩車した。
「うー…きゃはは♪」
すぐに笑った子供を見て、千歳はオサムの気持ちを理解した。
「(むぞらしか…)君ん名前は?」
「ぼく?けんじろー!」
「けんじろー?けんじろう……健二郎!?」
「なんや、にぃちゃ」
「あ、あぁ、なんでもなか…(とりあえず部室帰ったい)」
千歳は部室に向かい歩きだした。
もちろんオサムは放置されていた。
「にぃちゃ、どこ行くん?」
「ん〜…楽しか所ばい」
あながち嘘ではなかった。
「ただいま帰ったば」
「千歳!健二郎は無事……誰やその子」
部室の扉を開けると、真っ先に謙也が振り返った。
もちろん視線は頭の上に。
「健二郎たい」
『『『……は?』』』
今度はメンバー全員が千歳に視線を向けた。
「先輩…おかしなるんはジブリに関してだけにしてください。
副部長がそないちっさいわけないでしょう…」
「ほんこつ健二郎たい。
白石は信じっとやろ?」
「確かにかわえぇとは思う!
けどなぁ…」
まさかの白石まで子供が健二郎だとは信じなかった。
「なら本人に聞いてみっと?
健二郎、こん兄ちゃん達に自己紹介すったい」
千歳は子供、小石川を肩車から降ろしメンバーの方を向かせた。
「ぼく、こいしかわけんじろー!よろしゅう♪」
「……俺、耳おかしなったかな?」
「いや…謙也さんだけとちゃいますから、不本意ですけど正常ですわ…」
「なんでやねん!?」
「五月蠅いっスわ…ほんなら師範と金太郎は?」
「わしも耳は正常やで」
「健ちゃんワイよりちっこいで!」
二人の反応からも子供、もとい小石川の言葉が聞き間違いではないことが分かる。
「………」
「白石、なに黙ってんねん」
なぜか小さな小石川のことを見ずに黙っている白石。
「なんや白石、遊ばへんのか?
健ちゃんかわえぇで!」
「きんちゃ、だっこ!」
「ヨッシャ!超ウルトラグレートデリシャス大車輪山嵐やった『『やらんでいい!』』
危うく小石川が投げ飛ばされるところでメンバーのストップがかかった。
「ほんまかわえぇ子Vv
でも、どのくらいで戻るんかしらね?」
『『『………さぁ』』』
小春の言葉に全員が一番重要だが忘れていたことを思い出した。
「さっきの瓶に書いてないんスか?」
「いや、瓶は…」
財前の問い掛けに言葉を詰まらせたのは、黙っていた白石。
「なんですの、はよぅ言うてくださいよ…」
「いや…あんな…コイちゃんが出て行った後に『こんな液体信じた俺がアホやった』おもて…」
「まさか…捨てたんじゃ」
「割ってしもてん」
「なお悪いわボケ!」
瓶を割ってから小石川が小さくなってしまったため、白石は焦りと、葛藤で黙っていたのだ。
「ほんまに…ここまでダメとは思わなかったっスわ…」
財前はあからさまなため息をついた。
「せやかて…かわえぇコイちゃん楽しみに【移り行く〜この街で、恋を捕まえて〜エクスタシィ〜♪エクス…】はい、もしもし」
突如白石のケータイが鳴った。
しかし問題はその着うた。
「…あないな歌、ほんまにあるんやなぁ」
「蔵リンにピッタリね♪」
「ありえへん…」
「諦めろ財前…あれが部長なん『なんやて!?』…今度はなんやねん…」
皆が叫んだ白石を見る目は『まだ何かあるのか』という目だ。
「あぁ…分かった…おおきに」
「誰からやったん?」
「いや、それが不二からやってんけどな、あの液体について言うてた」
「!…なんて言いはったんですか?」
「あれな、簡単に言うたら幼児化の薬やねんて。
ほんで、戻るまでの時間はきっかり24時間」
「24時間ちゅーことは、明日の部活時間までやな」
明日の部活時間まで、と簡単には言うが、問題は山積みだ。
「とにかく、今日は誰かが預からなきゃならないわね」
「もちろん俺が預か『もちろん蔵リン以外でね♪』Σなんでや!?」
「そんなもん、部長に預けたら副部長の貞操が危ないからに決まってるでしょ」
「財前!お前は部長をなんやと思って『ただの変態』orz」
部長の面目丸つぶれである。
「やっぱりここは公平にくじ引きかしらね?」
「それで白石に当たったらどないするん?」
「大丈夫よ、引かせないから♪
ユウ君も引いてね♪」
「……嫌や…今日は小春との新作コントの衣装作んねん」
「なら健ちゃんのお洋服も作って欲しいわぁ♪」
「なんで俺が…」
「やって、かわえぇと思わへんの?」
先程から金太郎、千歳と遊ぶ小石川を指す小春。
「うー、ちぃちゃ、ふわふわ!」
千歳の髪を触りはしゃぐ小石川は、普段のしっかりした彼からは想像が出来ない姿だ。
「…小春ほどやないけど、か、かわえぇんとちゃうか?」
「ほんなら決まりやねvV」
というわけで、白石抜きのくじ引きが始まった。
「じゃあいくわよ」
『『『せーの!』』』
バッ!
結果は…
「チッ…ハズレっスわ」
「俺もや…(って、何を残念がってんねん!?)」
「私もハズレやわぁ」
「ワシもや」
「ワイのなんも書いてへん!」
内心『金太郎に当たらなくて良かった』と安堵するメンバーだった。
「俺も違か」
「ちゅーことは…」
全員の視線が一氏に向いた。
「…っなんでやぁあぁ!?!」
「ユウ君なら安心して任せられるわぁ♪」
「小春…っそないに俺のこと信頼してくれるんか!?」
「当たり前よんvV」
「小春〜Vv」
そんな光景を見る周りは…
「相変わらず上手いなぁ、小春の飴と鞭」
「あんなんに騙されるんはあの人だけっスわ」
『『『せやろなぁ』』』
すっかり飼い馴らされている一氏に諦めの視線を送っていた。
「と言うことで、はいユウ君♪
ケン坊のことお願いね♪」
小春は遊んでいた小石川を抱き上げ、一氏に差し出した。
「うー…にぃちゃ、だれ?」
「この人はユウ君って言って、ケン坊は今日はユウ君のお家にお泊りよん♪」
「ゆぅちゃ?」
小春に教えられた通りの名前を復唱する小石川。
しかし、口がうまく回らず、舌ったらずになってしまった。
「(キュン……なんやなんや!?
ほんまにコイツ小石川かいな?!
可愛すぎやんか!?)」
そんな小石川にキュンとしてしまい脳内で悶える一氏がいた。
「うわぁぁぁあ!!
俺のコイちゃんがユウジに汚されるぅぅぅ!!」
そして騒ぐ白石。
「ウザっ……先輩、副部長に手ぇ出したらどうなるか、さっきの話聞いてましたよね?」
さっきの話=金太郎のブラック発言。
「わ、分かっとるわ!
俺かてまだ死にとうないねん!」
「ならいいっスわ」
話も一段落したとき…
キーンコーン カーンコーン…
「部活終了のチャイムだっちゃ」
「せやな…帰ろか……コイちゃん、しばらくのお別れや…!」
白石は涙を流しながら小石川の手を握っていた。
「にぃちゃたち、またね♪」
小石川は、メンバーに手を振りながら別れを告げた。
その日は暫くの間、白石の啜り泣きが聞こえたとか聞こえなかったとか。
→一氏ユウジの葛藤