「にぃちゃ、だっこ」

小さな手を広げて一生懸命に腕を伸ばす小さな子供。

「おいで〜Vv」

その可愛さに一発KOの超絶聖書絶頂包帯毒草魔神。



「ちゅー夢を見たんや」

まさかの出だしで夢オチだが、流石は四天宝寺中テニス部レギュラー。
これしきのことはには動じない。


「副部長、夢見最悪っスね…俺ならショックで学校来られへんわ」

「俺かて出来たら寝込みたいわ。
せやけど…」


小石川はチラリと部長である白石を見た。


「コイちゃんの夢にまで出られるやなんて、ん〜絶頂!!」

「誰かコイツの制御出来るか?」

『『『無理やろ』』』


全員の見解は見事に一致で、誰にも白石を止めることは不可能なのである。


「でも、夢に出たんは白石だけとちゃうんやろ?」

「あぁ、なんやちっこい子供がおった」

「子供…」


謙也はそのまま金太郎を見た。

「なんや、謙也もたこ焼き食うか?」

当の本人は話しなど聞いておらず、石田と買ってきたたこ焼きを頬張っていた。


「いや、今はえぇわ。
それで健二郎、子供は金太郎やったんか?」

「よぉ分からんけど、髪は赤やない……茶…っぽかったな」

「茶なら、謙也くんやないの?」


小春が謙也の肩に手をおき答えた。

「浮気か!死なすど!!」

すぐさま吠える一氏。


「ふふ、五月蝿いから少し黙っててね、ユウくんVv」

「うわぁあぁぁ!!
小春が反抗期やぁあぁぁ!謙也のアホぉおぉぉ!」

「なんでやねん!?」


なぜか自分のせいにされてしまった謙也のツッコミも、最早一氏の耳には届かない。

「大分話しが逸れたっちゃね」

確かに、最初の話しから大分ズレていた。


「………」

「どないした財前、さっきから黙って」


先程から黙っている財前に、いつの間にか正常化した白石が声をかけた。


「気付いた自分にムッチャ腹立つんですけど、その子供って髪が茶ぁなんすよね?」

「そうやで」

「まず部長と金太郎はありえへんし、謙也さんはブリーチしとるし、師範は地毛が黒で、ラブルスの二人に千歳先輩、俺は黒髪。ちゅーことは残っとるんは…副部長ちゃいますか?」

「俺?なんで自分の夢に出なあかんねん」


確かにそれはもっともな疑問だが、財前はそれ以上に気になることがあった。


「小さい時の副部長ってメッチャ可愛いんでしょうね」

「せやなぁ……健二郎、写真とかm『持ってへん』やんなぁ」


期待を込めた謙也だったが玉砕。


「でも昔の健二郎見たかね」

「見たい言われてもなぁ…アルバムは実家やし」

「なら、現物に会えばいいのよん♪」

「現物に会うて…せやかて健二郎はちっこくはならへんで?」


突然何を言い出すのかと、首を傾げ謙也は小春を見た。


「うふふ……これよ!」

「なんやねん、そのいかにも身体に悪いです的な液体は」

小春が取りだしたのは、5cmほどの小瓶。
そしてその中には紫の液体が入っていた。


「これね、前の練習試合の時に青学の不二君にもろたんよ♪」

「出所が分かりやすすぎるぐらい怪しいっスわ…」

「それ飲ませれば可愛いコイちゃん見られるんか?!」


財前のツッコミを華麗にスルーして、白石は小春の持つ小瓶を奪取した。


「そう焦らないの。
さっケン坊Vv」

「さっ…ちゃうわ!
なんで俺がこない怪しげなモン飲まなあかんねん!?」


断固拒否する小石川。
すると白石が口の端をあげた。


「ひょっとして、コイちゃん怖いん?」

ピクッ

「おい白石…今なんて言うた?」

「いや〜、ただコイちゃんがこれ飲むん怖いんかなぁ、思ただけやで?」


ニヤリと笑う挑発的な笑み。
しかし、負けず嫌い(特に白石に対して)の小石川には効果は抜群だ。


「っ飲んだろうやないか!!」

「さっすがコイちゃん♪
男前やわVv」

「さっすが蔵リン♪
ケン坊のことなら手段を選ばないわねVv」

「やめておいた方がえぇんやないか、小石川はん」


石田が心配そうに声をかけた。


「心配あらへんって!
こんなんすぐに飲み干したる!」

グッ

「あぁ、健ちゃんずるい!
ワイも飲む!」

「金太郎は俺が後でこうたるから」


自分も欲しいと言う金太郎を謙也がいなし、いじける一氏を除き全員の視線が小石川に注がれた。


コクッ

「なんや、普通に美味いで?」

「え…なっなんともないんか?」


白石が普段の2割り増ししつこく問い詰める。
それほど白石にとっては重大なことなのだ。

「なんともないで?
普通にグレープジュース…みたいな?」

小石川の見た目にもなんの変化も起きておらず、白石はあからさまに気を落とした。


「俺のリトルコイちゃんと一緒計画が…」

「なんの計画やねん!?」


聞かずも内容の読み取れる計画だが、ツッコんでしまった謙也。


「そりゃ勿論、ちっさなったコイちゃんにあんなことやこ『それ以上喋るな!ドアホ!』照れんでもえぇやん♪」

「照れてへん!」

「なぁ銀、なんでワイの耳塞いでんねや?」

「気にしたらあきまへん」


石田の咄嗟の判断で先程の白石の発言は金太郎の耳に入らずにすんだ。


「師範ナイスですわ。
部長、冗談は試合中の絶頂発言だけにして下さい」

「冗談ちゃうのに…」


白石は部室の隅でいじけ始めた。
一氏と共に。


「なんや、あそこだけカビとか生えそうやな」

「大丈夫よ、カビ〇ラーあるから♪」


『慰める』の選択肢は誰にも存在しなかった。


「あ、俺オサムちゃんに呼ばれとったんや…ちと行ってくるわ」

「気ぃつけてな」

「無事でいてねん」

「オサムちゃんは要注意ばい」

「(合掌)」

「ちゃんと帰ってきてくださいよ」

「はよぅ帰ってきてな!」

「?、おう」


金太郎以外の反応が気になりながらも小石川は部室を後にした。



「なんや、皆感づいとったんか」

「当然っスわ…あの顧問、明らかに副部長狙てるでしょ…」


財前はあからさまなため息をついた。


「ホンマは一人で行かせたないねんけど」

「ケン坊は気付いてないし」


石田も小春も心配そうな顔を向けた。


「それなら心配なかね」

「なんでや、千歳」


千歳は一度笑い、金太郎に声をかけた。

「金ちゃん、もし健二郎がオサムちゃんに『すぐに存在消したるで♪』…やって」

レギュラーメンバーが金太郎の一面をかいま見た瞬間だった。


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