パチッ
「……またか…」
長い病院生活の中でも時々あった。
どんなに寝付きが良くても、夜中にふと目が覚める。
「もう平気だと思っていたのにな…」
無意識にケータイを開いて彼の番号を探す。
目をつぶっても探せる。
指が覚えてるから。
お決まりのコールが鳴って、そこから君の声が聞こえてきた。
『ん、幸村…か?』
「ごめん、起こしてしまったかい?」
コール1回目で出てくれたってことは、眠りが浅かったのかな。
『いや、構わない。
ところでどうした、こんな時間に』
「うん…ちょっと目が醒めちゃってね。
なんだか、真田の声が聞きたかったんだ」
『……幸村、今家にいるのか?』
「えっ、あぁ」
『そうか……待っていろ』
「えっ、ちょっ…真田?……切れた」
『待ってろ』って……まさか今から来るのかな?
「まさか…真田もそこまで暇じゃないよね」
今の時効は午前3時半。
明日の朝練に支障が出るのは確実だ。
「だから来るわけ【〜♪〜♪♪〜】…嘘……もしもし…」
『幸村、今…お前っの家…のまぇ、だ』
「(息が上がってる…)待ってて、今鍵開けるから」
すぐに玄関に降りて鍵を開けた。
そこに立っていたのは、急いできたのだろう、寝巻の着物が着崩れていて羽織っている学校指定のコートが凄く不釣り合いな彼だった。
「……ホントに来てくれたんだ」
家に招き入れて、俺の部屋に向かった。
早く彼を温めなきゃいけなかったから。
「どうぞ」
「すまぬ。
ところでお前一人か?」
「あぁ、今日は親は出張なんだ」
ベットに座って隣を叩いた。
「隣、きて?」
「…あぁ」
何も言わなくてもピタリと隣に腰掛けてくれる。
君のことだから、きっと無意識なんだろうな。
「………精市…」
「Σ!?…さ、なだ…?」
真田が俺を名前で呼んだ。
初めてではないけど、いきなりで驚いた。
「なぜ、そのような顔をしている?」
「えっ…」
「とても……寂しそうな顔をしている…」
外気で冷えても暖かい真田の手が、俺の頬に触れた。
俺より大きくて、大好きな手。
「そう見えるかい?」
「あぁ…」
「そうかもしれないな…」
自嘲気味な笑みが漏れる。
自分ではちゃんと笑えてると思ってたんだけどな。
「なんだろうね……多分、なんでもないんだ…」
「…俺には、言えぬか」
「ちがっ…!……そんなんじゃないんだ」
ここで言ってしまったら、君に甘えてしまう。
弱くなってしまう。
「精市……俺は、もっと自分を頼って欲しい……お前が…大切だから」
「!………ずるいよ…真田は……ずる、ぃ…」
いつもは絶対にそんなこと言ってくれないくせに…
俺が弱気になってる時は有り得ないくらい敏感なんだ。
「一人が、怖いんだ…」
「………」
「病院での夜はいつも一人だった。
だから今日みたいに誰もいなくなる日は目が醒めてしまうんだ」
どうにもならない不安。
そんな時、君に助けを求めてしまった。
「お前は一人ではない。
俺がいるのだからな」
「!…真田…」
暖かな温もりに包まれる俺の身体。
いつもは俺が抱きしめているのに。
「暖かい…」
「寂しくなれば俺を呼べ。
いつでもお前の側にいてやる」
なんで君はそんなに優しいんだろう。俺はいつもその優しさに救われる。
「お前が寂しいと…俺も寂しいのだ…」
「Σっ!…ごめん……真田…!」
「構わん」
俺が声を抑えても、胸元を濡らしても、君は何も言わずにいてくれる。
ただ側にいてくれる。
「真田…一つ頼みがあるんだ」
「なんだ」
「今日は、一緒に寝てくれないか?」
断られるとは思った。
けど、この温もりを離したくなかったんだ。
「構わない。
今は…お前の側にいたいのだ」
「!…フフッ、ありがとう真田」
二人でベットに寝転んだ。
広いベットだけど、出来るだけ小さく見を寄せた。
とても暖かくて、すぐにウトウトしてきた。
それは真田も同じみたいで、瞼が重そうだ。
そうだよね…夜中に俺のために来てくれたんだ。
「お休み…弦一郎」
チュッ
瞼に小さく口づけて、俺も目を閉じた。
君を感じる
どうぞこの温もりがいつまでも俺のそばに
END
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