学校も終わって、部活も早目に終わって、俺の気分は最高潮だった。
なぜなら、これから家で待つ可愛い猫達の首輪を買いに行くから。

「楽しみやなぁ♪」

スキップしたい衝動を押さえて、普段から師範の用品を買いに行くペットショップにダッシュした。


「こんちわ!」

「おぉ、健二郎くんやないか。
久々やなぁ」


ショップのおっちゃんはイツモの陽気な笑顔で迎えてくれた。
ここには師範を飼いはじめた時から通って世話になっていた。


「最近部活が忙しゅうてな」

「そうか。
で、今日は何がいるん?」

「あんな、今日家に新しい猫がきてん!
やから、首輪が欲しくてな」

「ほんなら、新作入荷したで、待っとき」

「おん!」


新作入荷とはラッキーだった。
時々思うが俺は運がいい。

「ん?」

ウキウキと首輪を待っていると、店の隅のケージが目に入った。
中には毛布が敷かれていて、もしやと思い中を覗いた。


「……っ!」

『ん〜っ…にゃ…』

「か…かっ…!」


かわいい……何と言うか、何とも言えない可愛さだった。
濃いめの黒い毛色といい、フワッとした毛並みといい、寝転んだ愛らしさといい…

「アカン…惚れてもうた」

一目惚れなんて初めて、ましてや猫に。
ドキドキが止まらない…この猫から目が離せない。


「健二郎くん、待たせて…健二郎くん?」

「へっ?あ、おっちゃん」

「どないしたん?ぼーっとして」

「あ、いや…」

「あぁ、その猫な。実はその猫売れ残ってしもうてん。
なんでか誰にも懐かんのや。困ったもんやで」


売れ残り?こんなにかわいい子が?
ありえない…この子を飼わなかった奴らはどこに目を付けているのか。


「ほんならこの子…俺にくれへん?」

「え、別に構へんけど」

「よっしゃ!おおきに、おっちゃん!」

「いや、引き取り手が見付かって良かったわ。
ほんならコイツの分も入れて、首輪三本はサービスすんで!」

「ほんま!?おおきに!」


おっちゃんの好意に甘えて首輪を三本選んだ。
師範にはネイビーの首輪。
光には黄色で音符の飾りが付いた首輪。
貰った黒猫には明るい緑の首輪を選んだ。
首輪の入った袋を鞄にしまって、黒猫を抱き上げた。
思ったよりも重い、なんて思いながらショップを出た。

−−−−−

突如浮上した意識。
なんだか揺られる様な感覚で、イツモのケージじゃない。
揺れの正体を探るべく、起きてみた。


『ん、んーっ!………誰ね…アンタ』

「お、起きたか?俺はお前の飼い主やで」

『飼い主……俺が寝ちょる間に話しば進んじょったか』


目の前にいたのは茶のような髪色をした、まだ少年の部類に入る男だった。
男は自分を飼い主だと名乗ったが、いつの間に話がまとまったのか。
俺は、この後コイツが言ったことに驚いた。


「お前…関西の生まれちゃうな。
言葉がちゃうし……九州の言葉か?」

『!…アンタ、俺の言うこつば分かっとや?』

「おん。ありえへん様な話やけどな」


ニカッと笑ったコイツは嘘を言っている様には見えなかった。


『……信じるばい。ちゃんと俺の言葉を聞きとっとやろ?
なら疑う余地はなか』

「!…おおきにっ!」

『うにゃ!?
く、苦しいったい…』

「あ、すまん!嬉しゅうてつい…」


苦笑を浮かべて謝るコイツに、なんでか興味を持った。
ほんの些細な、好奇心にも似た興味を。


『アンタ、名前は?』

「俺は小石川健二郎や」

『健二郎…でよかと?』

「おん!せや、お前にも名前付けなあかんな。
どんなんがえぇやろか」


健二郎は俺を撫でながら、名前を考え始めた。
少しだけ頭をずらして見上げた健二郎は、なんとも男前な顔をしていた。
でも、さっき俺に笑い掛けた健二郎はすごく可愛かった。
どっちの健二郎も俺の興味をそそる。
しばらくして健二郎が俺の脇を抱えて、腕を伸ばした状態で正面に抱き上げた。


「お前の名前は、千の里って書いて“千里”や!」

『千里…』

「これからよろしゅうな、千里」

『!…よろしく、頼むばい』


千里…それが今日から俺の名前。
健二郎に呼ばれるからだろうか、すごく心地がいい名前だ。


『健二郎』

「なんや、千里」

『健二郎ん家には、他に猫ばおっと?』

「おん!元は一匹やったけど、今日の朝にもう一匹が家族になってん!」


楽しそうに笑う健二郎。よっぽど猫が好きなのか。
俺より先に健二郎と一緒に住む猫……どんな奴らなのか楽しみだ。


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