「跡部」

「あーん?誰だテメェは」


イキナリ名前を呼ばれて振り向くと、こっちをじっと見てる奴がいた。男だがどこか聡明な美しさがある、不思議な奴だ。


「分からんのか、俺だ」

「だから誰だよ」


軽く睨んだところで、コイツの態度は変わらない。鬱陶しい。挙げ句、こんなことを言い出した。

「今度、俺の誕生日なのだが、その……一緒に、祝ってはくれぬか?」

は?なんでお前の誕生日を俺様が祝わなきゃいけねぇんだよ。


「俺様には関係ねぇ」

「ならば、クリスマスはどうだ?」

「飛び過ぎだ!
大体テメェの誕生日は5月だろ!クリスマスは12月……!」


俺様は今何を言った?お前の誕生日は5月?なんで俺様がコイツの誕生日を知ってんだよ?


「良いではないか。最近はなかなか会えぬのだから」

「そんなこと知ったこっちゃねぇ」


クリスマスを一緒に祝う気なんて更々ねぇよ。それより…

「なんで俺様に付き纏うんだよ」

お前なら構ってくれる奴くらいいんだろ。


「なぜ…だと?それは…跡部、貴様のそばに居たいと思ってはいけないのか?」

「気安く呼ぶんじゃねぇ!」


なんでこんなに馴々しいんだよ。……そう言えば…


「テメェ、イキナリ声かけてきたがいつから居た?」

「いつから居たと思う?」

「ふざけんじゃねぇ。聞いてんのは俺様だ。ちゃんと答えろ」

「内緒だ」


訳のわからねぇ奴だ。だが…コイツの顔には、何故か見覚えがある気がする。
初めて逢ったハズなのに、俺様としたことが思い出せねぇ…どこかモヤのかかったビジョンを探る。

「跡部よ…貴様は俺のこと忘れてしまったのか?」

悲しそうに顔を歪める男。なぜだか胸が締め付けられた。やめろ!
そんな顔すんじゃねぇ!

「……さらばだ…景吾」

っ!

「っま、待ちやがれ!」

なんでこんな大事なこと忘れてたんだ!手を伸ばせば届きそうな距離なのに指先すら届かねぇ!
足が重くて進まない。俺様には遠ざかるアイツを見送ることしか出来なかった。




「  っ!」バッ!

思わず叫んだ名前。その勢いで俺は夢から覚める。
そんな時…


ガチャッ

「跡部、早う起き」

入って来たのは忍足。あぁ、昨日コイツを泊めたんだったな。


「ノックぐらいしやがれ」

「まぁ細かいことは気にしたらあかんて」


大して気にした様子もなく部屋に入って来る。

「はぁ……いいからさっさと出てけ…」

忍足を追い返そうとすると…


「跡部…自分、泣いとったんか?」

「っ!?」


忍足に言われるまで気付かなかった。自分の頬に乾いた涙の跡があることを。

「……フッ…馬鹿馬鹿しい」

まるで自分を嘲笑うかのようにしか笑みが出ない。


「大丈夫なんか?」

「お前に心配される義理はねぇよ」

「なんやねん…せっかく友達を心配してんのにぃ…」

「気色わりぃこと言ってんじゃねぇよ」

「自分酷いわぁ…
まぁえぇ、良い天気やからカーテン開けや」


それだけ言い残すと忍足は俺の部屋から出て行った。部屋で一人残された俺様は忍足に言われた通りにカーテンを開ける。

「っ……」

太陽の眩しさに思わず目を細める。天高く輝く太陽だけは俺様を照らしてくれる。

今日も

明日も

明後日も


「そう言えば…俺様が見てたアイツは、夢……だったのか…?」

なんだか輪郭もボンヤリとしか思い出せない。自分で叫んだハズの名前も思い出せねぇ。
すげぇ大切なことだった気がする…が

「まぁ、いい」

俺はそのまま部屋を後にした。





俺様はその後気晴らしに散歩に出掛けた。なぁ、俺様がお前を思い出すのはいつになるだろうな?
フッ…こんなこと考えるなんてな。

「俺様らしくもねぇ」


トンッ…


「あ、すっすまない」

「いや…俺様もボーッとしてた」


ぶつかって来たのは俺より背の高い男だった。ツバの付いた帽子を被っていて、目元はよく見えなかった。

「ホントにすまない。急いでいたものでな」

謝りながら顔をあげる男。

「いや、だから……?」

この顔…

「どうかした……」



『何処かで会ったか?』







みたいなリアル

またお前に出会えるなんて、夢みたいな現実。


END

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