知っとるか?俺がどんだけお前を好きやったか。
まぁ、知らんくてもしゃーないわ。俺の想いは、ずっと伝えることは無かったから。
伝えんくても分かると思っとった。お前なら。
俺をよく見てくれてるお前なら、俺の気持ちに気づいてくれるんちゃうかなって思っとった。
けど、お前は俺の想いには気付かんかった。





いつもの休日。いつもと違ったのは、バッタリとお前に会ったこと。
俺はふらついてただけ。お前は待ち合わせ。
お互いに時間がある。そんなこんなで喫茶店で時間を潰すことにした。二人揃ってアイスティーを注文して席に着いた。


「で、最近どうなん?」

「何が?」

「何がやあらへん。千歳や。ち・と・せ」

「えっ……あぁ」


ほんのりと赤く染まる頬。
照れたような苦笑。
素直に可愛いと思える仕種。
けど違う…それは、俺に向けられたものじゃないから。

いつだったか、部活終わりに部室に残っていた時に言われた。

『千歳に告られた』

その時も、おまえの顔は赤かった。困惑した表情じゃなくて、どことなく嬉しそうな顔をしていた。
知っていた。お前が千歳のことを気にしていたこと。
もちろん、千歳が四天宝寺に来て、健二郎が自分の居場所を見失いかけていたせいもある。
けど、それとは別に感情があったこと、俺はそれに気付いていた。
そして、千歳もお前に特別な感情があったことを。
だから、よかったやん。なんて、心にもない一言を言うのが精一杯だった。
ずっと好きだった。なんて、言えるはずがなかった。
俺には、お前の幸せを壊すなんて、そんな勇気はなかった。


「最近は…順調、やで…?」

「さよか。そら良かったわ」


ニッコリ笑ってやると、おおきに。ってはにかんだ。
その笑顔が、全部俺に向けば良いのに……俺にだけ、いろんな表情を見せてくれたら良いのに。
叶わないとわかっていても望んでしまう。なんて愚かなんだろう。


「……そろそろ来るんやないか?」

「えっ? あ、ほんまや。どこにおるんかな?」


周りを見渡して、癖の強い黒髪の長身を探す。お前の瞳は、もう俺を見てはいなくて、言いようのないモノが渦巻く。

「あ、おった」

見つけた。向こうもこっちを見つけたみたいで、駆け寄ってくる。
やめてくれ。お前が来たらこの時間が終わる。
そんな俺の願いが通じるわけなんかなくて、二人だけの時間が終わる。


「ほんなら白石、付き合うてもろて悪かったな」

「いや、俺も話ができて楽しかったわ。またな」

「おん!またな」


大好きな笑顔を残して、千歳の元へ行くお前の背中をずっと見ている。ずっと。
今までもずっと見てきた。お前が気付くことはなかったけど。

「俺も、えぇ加減にせなあかんな」

俺の苦笑を写したグラス。その中で、カラリと氷がなった。







迷走哀歌

宙に溶けた切なる思い。


END

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