※微裏




















誰かに話すことなんてこの先絶対にない。
二人だけの秘密の話。





「コイちゃん」

「部誌ならロッカーん中やで」

「さよか、おおきに」



「コイちゃん」

「千歳なら今日も来とらんで」

「またかいな」



「コイちゃ〜ん」

「なんや?ボタンでも取れたんか?」

「せやねん、付けてくれんか?」

「しゃーないな」





「………そろそろツッコんでもえぇやろか?」

「えぇと思いますわ」

「っ…なんやねんアイツ等は!?恋人か?!夫婦なんか?!」


ずっと黙って二人の様子を見ていた謙也と財前だったが、最早謙也の我慢が限界に達した。
白石に名前を呼ばれただけで、白石の要求を組み取る小石川。そんな二人には言いようのないもどかしさが感じられた。なぜなら、二人は恋人どころか付き合ってすらいないからだ。


「そんなに気になるんすか?」

「そら、あんだけ通じとったら気にならん方がおかしいっちゅー話しや」

「ほんなら、本人に聞いてまえば万事解決っスね」

「そんなもん気安く聞けるわけn『副部長〜』ってお前はまず俺の話しを聞けや!!」


謙也のツッコミ、もとい謙也を無視し、財前は小石川の元へと駆け寄った。


「副部長」

「ん?なんや財前、なんか用か?」

「まぁ用っちゃ用っスわ」

「なんや?言うてみ?」

「んじゃ遠慮なく。
副部長は、なんで部長の言いたいこと分からはるんですか?」


財前自身はいたって真面目な質問をしたつもりだが、聞かれた小石川はキョトンとした表情を浮かべていた。

「(今のちょっと可愛い……やなくて)副部長は部長が名前呼ぶだけで、用件が分かるやないですか。なんでなんすか?」

今度は内容を理解したのか、小石川は小さく『あぁ』と呟いた。


「うーん…なんちゅーか、よう分からんけど、アイツの言いたいことは分かんねん」

「それは、部長のこと好きやからですか?」

「好き?まぁ、好きか嫌いかで言うたら好きやで。白石は俺の大事な親友やからな」

「………は?」


小石川の答えに財前は間の抜けた声を出した。あれだけ意思が通じているにも関わらず、あっさり【親友】と言われたことに納得がいかなかった。

「親友って…いくらなんでもアレは出来すぎっスわ。
恋愛面では見とらんのですか?」

納得いかない財前は今度は核心に触れる質問をした。

「恋愛?アハハッ!そらないって!
確かに付き合いは長いし、お互いのことはよう分かってるかもしれへんけど、お互いにえぇ親友やと思うてんねや」

そう言って笑顔を浮かべる小石川。普段から嘘をつかない彼をよく知っていた財前は、小石川を疑うことが出来なかった。


「そうですか。ほんなら俺はこれで」

「おぅ」

「(副部長はあぁ言うてるけど、部長にも聞いてみな分からんし)」


小石川の答えを謙也に伝えるべきか悩んだ財前だったが、いちいちツッコミの対処が面倒だと考え白石の元へ向かった。



「部長」

「お、なんや財前?
!さては財前…」

「? なんですの?」

「お前……ついに俺のエクスタシーな魅力に気づい『それだけは天地がひっくり返っても、地球が半分に割れようとも、部長があの世に逝こうとも有り得ないっスわ』…相変わらずノリの悪いやっちゃなぁ」


常日頃、財前の毒舌に慣れているせいか白石は苦笑を浮かべる程度だった。


「で、用件はなんなん?」

「別にたいした用やないんすけどね」


先程の小石川のことを思い返した財前は、回りくどいことは無しに白石に質問を投げかけた。


「部長は、副部長が好きなんですか?」

「ん?コイちゃん?そんなん大好きに決まっとるやないか!」

「それってやっぱり…!」


今度こそ!と期待の眼差しを向ける財前だったが…

「やって俺等、大親友やもん♪」

やはり白石からも小石川同様の答えが返ってきた。


「(こっちもか…)せやかて、いくら大親友言うても相手の言いたいこと全部把握するんは無理なんとちゃいますの?」

「そこはあれや、俺とコイちゃんやから出来んねや♪
ようできた親友やで、ほんま。嫁にするんやったら、コイちゃんみたいな子がえぇなぁ」


しみじみ語る白石に財前は、戸惑いを含む呆れた表情を向けた。


「(おもろいほど冗談に聞こえないっスわ…)」

「他に聞きたいことあるか?遠慮せんでえぇで。
今ならなんでも答えたる!」


なんでもとは言うが、財前は小石川と白石の答えが一致した時点で最早白石に対し、何の興味も感心も無かった。


「いや、別に何にもないっスわ」

「財前は謙虚やなぁ。
大丈夫やって!何聞かれても怒らn『無い言うたら無いです。部長しつこいっスわ。
そんなんやといつか副部長に捨てられますよ』……へっ…」


その一言を聞いた瞬間、白石の動きはピタリと止まり、顔が青ざめ始めた。

「嫌やぁぁぁぁぁぁ!そんなん堪えられへん!
コイちゃぁぁぁぁん!!」

半ば泣き出しそうな勢いで、白石は小石川の元へと走って行った。

「……ほんま…冗談に見えへん」

白石の背中をいぶかしげに見つめながら、財前はため息を漏らした。

「謙也さんへの報告は……面倒やからえぇか」

事実上、謙也を放置して財前は部活を再開した。



 
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