「不動くん、一緒にパス練しよう」

「不動くん!ちょっと聞いて欲しいんだけど」

「不動くん♪一緒に風呂に行こう!」

「不動く〜ん、一緒に寝ようVv」


頼む。誰かコイツを俺の視界から抹消してくれ。


事の始まりは、先日のイギリス戦。後半に鬼道と二人で指示を出している時、俺は基山の事を名前で呼んだ。
試合状況もあって、つい名前で呼んでしまった。“基山”よりも“ヒロト”の方が先に口を出ただけ。それだけだった。
なのにコイツは試合後からずっと俺に纏わり付いてきやがる。いつもは円堂の後ばっか着いてるくせに。

「あのね不動君♪」

まただ。いつも通り無視を決め込む。いつもならこれでどこかにいなくなる。なのに今日は違った。


「不動君てば〜」

「…っ、なんなんだよテメェは!
毎日毎日付き纏いやがって!テメェは円堂にでもくっついてりゃ良いだ…っぐ!」


いきなりジャージを捕まれて、壁に背中を押し付けられた。咄嗟の事で反応が遅れて、息がつまった。


「ってめ、何しやがるっ!」

「何を? だって当然だろ。俺の前で他の男の名前を出したんだから」

「他の男って…円堂の名前なんてお前も…っ」

「ほら、また言った。いくら円堂君でも許さないよ。
俺はね、円堂君が好きなんだ」


いきなりの告白。もちろん俺に言ったところで何の意味もない。だからコイツの意図が全く解らなかった。

「だったら、俺なんかに構ってねぇで、とっとと行けよ」

そうだ。俺にかまけて無いで、とっとと円堂の所に行っちまえば良いんだ。
その時、基山の目が細められて口元が笑った。急に背筋がひんやりして、動けない。
目を反らしたくても、嫌味や暴言を吐きたくても。

「俺はね、円堂君が好き。でもね…」

基山の顔が近付く。赤い髪が額をかすめて、口に触れる柔らかい感触。すぐに離れたそれにも俺は動けない。

「俺は円堂君よりも不動君、君が好きなんだよ」

基山の浮かべた人の良さそうな笑みに、また背中がひんやりとした。







ふざけた裏側


それは俺にとって、恐怖の対照にしかならない。

今日も俺は、他に向けられる笑顔の裏で恐怖する。


END
 
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