「赤也ぁあぁぁ!お前はまた遅刻したのか!」

「うげっ!なんで知ってるんスか!?」

「このたわけ者が!」

「グハッ!……」


俺の部活はこの強力な裏拳を食らうことから始まる。食らわない日を数えた方が早いくらいだ。


「よくもまぁ毎日懲りないのぉ」

「そうですね。しかし、あれだけ毎日殴られて、切原君は『学習能力』という言葉はご存知なのでしょうか?」

「さぁのぅ。俺は全力で遠慮したいぜよ」


今日も俺は遅刻した。柳生先輩と仁王先輩はあぁ言ってるけど、俺の場合は学習能力がないんじゃなくて、わざと学習しないんだ。


「真田、そろそろ許してやりなよ」

「しかしだな…」

「部長〜!」


幸村部長はいつも俺を助けてくれる。でもそれは俺への愛情なんかじゃないことを俺は知ってる。


「ハハッ、勘違いするなよ?これ以上俺と真田の時間を減らしたくないからね

「ですよね〜…ランニング行ってくるっス」

「フフッ、いってらっしゃい」


俺に向けられる笑顔は一種の忠告みたいなもんで、笑顔の裏には『俺の真田に手を出すな』って言葉が隠れてる。
走ってる時に部室の前を見ると、楽しそうに、俺に向ける邪念の篭った笑顔なんかじゃなくて、愛しさで溢れた笑顔で話す幸村部長と、そんな部長に小さく口元を緩める真田副部長。
真田副部長は幸村部長と話す時、スゲェ綺麗に笑うと思う。いつもは厳しくて怖いけど、幸村部長と話してると笑うし赤くなる。照れたり涙ぐんだりする。
俺の知らない表情(かお)が沢山出てくる。自分でその表情を引き出すことが出来ないことにも悔しさを感じるけど、一番悔しいのはその表情を俺には向けてくれないこと。
前はランニングしてれば『ペースを崩すな』
自主練をしてれば『俺が相手をしよう』
タイムが縮まれば『いい感じだ』とイロイロ声をかけてくれた。でもそれは幸村部長と付き合う前までの話だ。
あの人は何かと理由をつけて俺と副部長を引き離す。今日の説教にしてもそうだから。
だから俺は遅刻もするし、忘れ物もする。そうすれば副部長が俺を怒ってくれる。その間だけは俺だけを見ていてくれるから。
でもいつか、なにも無くても俺だけを見て欲しいと思う。でもこの願いにはドス黒くて、いびつなモノが渦巻いている。







学習能力

こればっかりはいくら学んでも身につかない。


END


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