君のことは全部分かってる。そう思ってた。でも分からないんだよ。君の愛し方が。


ずっと一緒にいる。

抱き締める。

キスをする。

セックスをする。

笑いあう。


全部した。幸せな気分になった。でも何かが足りないような…妙な空白を身体の中に感じたんだ。
埋めようとしても埋まらない。もどかしい感覚だ。もっと君を好きになればいいのかな?そうすれば、この空白を埋めることが出来るのかな?
でもね、不思議なんだ。君を好きになればなるほど…

君の笑いかける人。

君と言葉を交わす人。

君に触れる人。


君以外の全ての人を嫌いになっていくんだ。


−−−−−

「それでだな、来週一緒に行く約束をしたのだ」

「ヘ〜。じゃあ楽しんできてね」

「あぁ」


あからさまにではないけど、顔を綻ばせる君。予定の内容は柳、仁王と買い物に行く。愛しい笑みを浮かべている君。でもね、君を笑顔にする2人のことを俺は大嫌いになったよ。


−−―――

「ただいま帰りました」

今日の部活も問題無く遂行した。明日は蓮二達と出かける日だ。柄にも無く楽しみにしている。友人と外に出ることは滅多にないから。


♪〜♪〜

「ん?誰からだ?」

ディスプレイに表示された名前は同じ部活の仲間。

「柳生?」

明日の部活のことか。と少し妙に思いながらも電話に出た。


「もしもし」

「もしもし、真田君ですか?」

「無論だ。どうかしたのか」


心なしか柳生の声がいつもより沈んでる気がした。何かあったのだろうか。しかし、次の言葉に俺の中のなにかが崩れた。


「落ち着いて聞いて下さいね。実は、柳君と仁王君が…」

「っ!…なん、だ…と」


スルリと手から落ちた携帯電話が床に落ちた音さえ分からない。身体の力が一気に抜けて、床に倒れ込んだ。目の前の携帯から柳生の声が聞こえるが、なんと言っているのか分からない。分かりたくもない。頭の中が真っ白になって、目の前がぼやけてきた。何も考えられない、何も見えない、何も聞こえない、何も…





感じない…

−−−−−

ねぇ、君は今どんなことを考えてるの?何も考えていないかもしれない。いや、何も考えられないかもしれないね。だってあんなことがあったんだから。
君を支えられるのは俺だけ。君を守れるのも俺だけ。君のそばにいてあげられるのも俺だけなんだよ。
ねぇ、他の誰もいらないでしょ?俺は君がいれば他には誰もいらない。だって俺が愛してるのは君だけだから。君だってそうでしょう?君が愛してるのは俺だけでしょう?なら君も俺だけを求めればいい。俺以外には誰もいらないでしょう?

昨日別れ際に見せたあの笑顔は崩れさって、どこへ消えてしまっただろうか。そんな事を考えながら、君の家の扉を開く。室内を見渡せば床に倒れ込む君がいた。近付いてみても、まったく反応を示さない。目は虚ろに開かれていて、この世の色……いや、光さえ映してはいなかった。『瞬き』と言う動作を忘れてしまったかの様に止まることのない雫が頬を伝い床を濡らす。


「大丈夫」

「っ!」


静かに抱き寄せれば一瞬ビクリと動く冷えた身体。すがる様に弱々しく俺の身体に手を回す。そんな仕草にも愛しさが増す。俺だけを求めている。その事実に口元が緩む。


「俺がいるから」

「っ…ぅっ」


声を掛けても返ってくるのは小さな嗚咽。今にも崩れそうな身体を壊れない様に包み込む。


「…そ、に…ぃて…く、れっ…!」

「モチロン。ずっと」


これで君はもう俺から離れられない。俺なしじゃ生きられない。柳と仁王には悪いことしたかな?でも幸せになる為には、多少の犠牲はつきものでしょう?







とある少年の幸福論

俺の幸せの作り方は残酷かな?


END
 

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