「なんでや…」

「どないしたん白石。さっきからそれしか言うてへんやんか」


机に肘を付き頬杖をつく白石。そんな白石に声をかける謙也。しかし、次の白石の言葉に声をかけたことを後悔する。


「なんであないかわえぇのや!」

「……いったい何の話しや…」


第一声からは何も読み取ることができない。そんな表情の謙也に白石は窓の外を指差した。

「あれや、あれ!」

指先を辿るとそこにいたのは…

「健二郎?」

次は体育の時間なのか、ジャージをまとった小石川がいた。

「せや!あぁ、なんであないにかわえぇんや!………ん?」

小石川を見つめていた白石が表情を変えた。

「今度はどないしてん?」

どうせ些細な事だろうと、謙也は少し投げやり気味に問い掛けた。

「いやな、健二郎のジャージ……いつもより少し大きないかなぁって」

真面目に答える白石に謙也は必死にため息を抑えた。


「お前はどこまで健二郎のこと知っとんねん…」

「健二郎のことで俺に分からんことはあらへん!」

「威張るな!にしても健二郎よりデカいジャージて、師範か?」

「いや、師範は今日体育無い言うて部室にジャージ置いて行きよった」

「さよか。なら誰や?健二郎よりデカい、ジャージを貸しても問題あれへん奴…」


………………

「「一人だけおった…」」





バァン!


「ちぃぃとぉぉせぇぇぇぇぇぇ!!」

「!はっ…な、浪速のスピード、スターっより、早いっ、ちゅ…話しゃ…」


たった数十mの距離だが、白石は光速を凌駕した。一方その白石に追いつこうとした謙也は息絶え絶えだ。

「白石、謙也、どぎゃんしたとね?」

尋ねられてきた本人は何が起きたか理解出来ないでいた。


「お前、なんで俺の健二郎にジャージ貸したんや!?」

「なんね、白石も次体育やったと?」

「せやね〜ん♪どーしてもジャージがいる…ってなんでやねん!」

「おぉ!ノリツッコミたい!」

「どこに関心してんねや…」


この3人が集まれば基本、漫才が出来上がる。

「で、なんで健二郎にジャージ貸したん?」

白石に聞かせると話が進まない。と正しい判断をした謙也が千歳に聞いた。


「朝練の終わったぐらいの時間、健二郎が『ジャージ貸してくれへんか?』ってここに来たばい」

「けんじろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!朝一に会うんは俺やんなぁ!?お前はこのもっさりジ◇リオタクの方がえぇんかぁぁぁぁ?!?!」

「うっさいねん!人様の教室で騒ぐな!」


大声で叫ぶ白石にカメラのフラッシュが飛ぶ。女子にとっては、発狂する白石のショットはレア物だ。一方千歳は…

「もっさりジブ◇オタク……っ!もう白石なんか知らんたい!!」

勢いよく教室を飛び出して行った。


「ちょっ、待てや!何処行くねん?!」

「健二郎に慰めてもらうったい!」

「ややこしなることすんなぁぁぁ!」


謙也の叫びも虚しく千歳は外に飛び出した。


−−−−−

「けんじろ〜!!」

「な、なんや?!」


千歳はグラウンドに出ると、友達と話していた小石川に思い切り抱き着いた。


「白石が俺んこつイジメよった!」

「なんや、また白石とかいな。で、今回はどっちが悪いん?」


いつものことなのか、小石川は慌てた様子もなく対応していた。


「悪いんはいつも白石ばい!」

「分かったから。早う教室戻り」


言い聞かせるように小石川は千歳の頭を撫でた。と、そこへ


「けぇぇぇんんじろぉぉぉ!」

「白石!?お前どっから出てん!?」

「窓から飛び降りた!」

「普通に言うなっ!」


そんな白石を見て、とある疑問が浮かんだ千歳は素直にそれを口にした。


「……謙也は?」

「あぁ、着地の時に下敷き、グハッ!」


謙也を下敷きにした発言により、小石川の右ストレートが白石の鳩尾にヒットした。


「お前はしばらく地面と遊んどけ。千歳、もうすぐチャイム鳴るさかい、教室戻り」

「分かったばい」


コクリと頷き千歳は校舎に戻って行った。

「さて、俺は謙也の蘇生に行かな」

小石川も教師に一言告げ、白石の着地点と思われる場所へと向かった。
残された白石は、小石川の残した

『白石に触れたらあきませんよ。必ず放置したって下さいね』

その言葉通り誰も白石を気遣いはしなかった。


−−−−−

「白石の教室やから……おった」

小石川は白石の教室の窓を頼りに謙也を捜し当てた。


「謙也〜?生きとるか?」

「………」


ペチペチと頬を叩くがウンともスンとも言わない。

「……死んでへんよな?」

不安になった小石川は呼吸を確認するために謙也に顔を近付けた。


「…んっ……………〜〜っ、なっななな!!なんでやぁぁぁぁぁぁ!?!?」

「ったぁ…なにすんねんな!」


突如目を覚ました謙也は、目の前の小石川の顔に驚き飛び起きた。その際、小石川と頭をぶつけてしまった。


「あっ、スマン!」

「…まぁえぇわ。ホンマ、生きとって良かったわ」

「まぁいっぺん死にかけてんけどな」


3階から落ちた人間の重力を受けて死なないのは奇跡的だ。しかし小石川は深くツッコミはしなかった。


「でも、なんで俺の場所解ったんや?」

「絶頂馬鹿がほざいとってん」

「……さよか」


あえて白石の実情は明かしはしない。しかし謙也もそれは悟っていた。


「けど、おおきにな」

「なにがや?」

「俺のこと心配してくれて」


普段から授業以外はほとんど白石に付き纏われている小石川。その小石川の視界に自分しか入っていないことに、謙也は密かな喜びを感じていた。


「何言うてんねや」

「えっ…」

「この状況で心配すな言う方がおかしいやろ?謙也も俺の大事な奴の1人やねんから」

「!お、おぅ!ほな俺教室戻るわ!」

「あ、謙ゃ……行ってしもた…さすがは浪速のスピードスターやなぁ」


関心されているなど知らず走る謙也は…

「なんやねんあれ…」

初めて見た小石川の微笑みに顔を染めていた。

「まさか俺……健二郎のこと…」

謙也が自分の気持ちに気付くのはもう少し先の話し。







浪速のトキメキメモリアル

君の笑顔が俺の胸を掻き乱す。


END



オマケ

その頃放置プレイ中の白石は…

「健二郎〜…愛しのプリンスに目覚めの口づけをぉ〜」



「なんやアレ。部長、キモいっスわ」

教室の窓からグラウンドを見ていた財前に悪態をつかれていた。

ホントにEND


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