最近の俺はどこかおかしい。あれほど嫌っていた不動を嫌悪しきれずにいる。
目を合わせるどころか、顔を見るのも嫌で仕方がなかったはずなのに、気付けば、いつも視界に捕らえていた。
いつも一人でいるから、見つけるのはたやすかった。どんなに人が集まっていても、いつの間にか一人離れた場所でボールを蹴っている。
そんなある日、いつもと変わらないグラウンドでの練習。俺の目は自然と不動の姿を探す。しかし姿が見当たらない。


「どこに行ったんだ…」

「誰がだよ」

「誰って、不動だ。ふど…ぉ…?!」

「俺に何か用かよ」


後ろから問われた声に答えれば、それは俺が探していた不動の声だった。
突然の事に驚いて、不動を凝視する形になってしまった。と言っても、ゴーグル越しで不動からは分からないだろう。


「……ぉ、ゃん…鬼道ちゃん!」

「! なんだ?」

「なんだ、じゃねぇよ。俺を探してたんだろ?
何か用があんだろ。さっさと言えよ」

「いや、特に用があったわけじゃない。
姿が見えなかったからな、その…だな…」

「あっそ。何もねぇなら俺は行くからな」

「あぁ…」


淡々と言って俺に背を向ける不動。いつもなら舌打ちの一つでもして、厭味の一つでも残して去るところだが、それが今日はない。不思議な反面、いつもある事がないと物足りないと感じる。
人間とはこういう時に便利だ。考えよりも先に身体が動く。
行かないでくれ。その言葉が出る前に、すでに俺の手は不動の腕を掴んでいた。


「……何、用はねぇんだろ」

「ぁ、いや…すまない。その…」

「……鬼道ちゃんセクハラー」

「なっ!?」


顔を上げると、いつもの、人を小馬鹿にしたような笑みがあった。


「何?そんなに俺が好きなわけ?
あれだけ煙たがってたくせに」

「それはっ…」


すぐに反論出来ない。
今まで通り、嫌悪して、遠ざければ良い。
けれど出来なかった。今まで、無意識に出来たことが出来なくなっていた。


「……鬼道ちゃん」

「…なん、っ?!」


突然唇に押し当てられた感覚。理解に時間は必要なかった。不動にキスされた。
理解はしているものの、身体が動かず、言葉が口を出ない。
嫌悪の対象からの口づけ。以前の俺なら、反吐が出る。等と吐き捨てて、奴を突き飛ばしていただろう。
だが俺はそれをしない。いや、出来ない。嫌悪とは対照の感情が俺の中に漂う。

「なんだよ、何も無しか。
突き飛ばすぐらいはすると思ったのによぉ」

つまらない、とでも言いたげに小さくむくれる不動。不覚にも可愛い、などと思ってしまった。

「不動、俺は貴様が…」







嫌いなはず

だけど嫌いと言い切れない。


END
 
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