いつもの様に午前の練習が終わった。が、不動の姿が見えない事に気がついた。いつもなら端のほうでクールダウンかリフティングをしている。だが今日に限って姿が見えない。

「一体どこへ…」

とりあえず、皆と一緒に宿舎に戻った。もしかしたら先に戻っているのかもしれない、と。
しかし宿舎に不動の姿はない。食堂にも、部屋にも。

「不動さんがいませんね。お昼食べないと午後の練習辛いですよ」

心配そうに残った不動のトレイを見つめる春菜。その肩を小さく叩く。お兄ちゃん?と首を傾げる春菜に、不動を探して来る。と告げ、俺は宿舎を出た。

まずはグラウンド。だがグラウンドは開けていて、隠れるような場所はない。いたらすぐにわかるだろう。ないとは思ったが、可能性を考えて俺は店舗通りを見て回った。
人通りもそれほど多くはなく、見通しもよかったが見当たらない。もしかしたら、出掛けはしたがすぐに宿舎へ戻ったのかもしれない。そう思い、店舗通りを後にした。

宿舎に着くと、『食休み』という言葉を知らないのか、円堂がタイヤとぶつかっていた。
そこで思い出した。不動もよく一人で練習していることを。

「あそこか」

不動が一人力を高める場所。裏の林へと入って行くのを時々見かけていた。
林に入ると、幾つかボールの当たった木を見つけた 。不動の練習跡だろう。しばらく歩くと少し開けた場所に出た。その中に

「なんだ、昼寝か?」

大木に身を預け、僅かに射す木漏れ日を浴びて寝息をたてる不動がいた。
ユニフォームや手足、顔にまで泥を付けて、はしゃいだ後の子供のようだ。自然と顔が綻び、不動の隣に腰掛けた。
体重を俺の身体にかけさせ、肩に頭を乗せる様に抱き寄せた。力なく傾いた不動は穏やかな寝息を立て続けている。
普段もそうだが、やはり寝顔は可愛い。口や態度で大きく見せていても、不動も俺と同じ子供なのだ。と感じる。どことなく幼さが残り、あどけない。

「いつもこれぐらい大人しければな」

少し嫌味を言いつつ、不動の唇へ口づける。


「お伽話みたいだな」

「王子様のキス…ってか?」

「なんだ、起きてたのか」

「今起きたとこ」


立ち上がり、伸びを一つした不動。そのままいつもの笑みで振り返った。


「でも俺、信じてなかったんだよね」

「なにがだ?」

「んー?王子様のキスってやつ?」


ニヤニヤしながらこちらを向く不動。嫌ではなかったらしい。それだけはよかった。


「なんだ、まだしてほしいのか?」

「……鬼道ちゃん夢な〜い…」

「ならやめるか?」

「んなわけないじゃん」


不動の細い腕が俺の首に絡み付く。


「随分とねだり上手なお姫様だな」

「そういうのはお嫌い?」

「いや、面白い」


頭を引き寄せ口づける。先程よりも優しく、柔らかに。







我が儘ハニー


王子のキスは目覚めの合図。
姫のキスは単なるわがまま。

END

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