「ラファエレー!」
「アンジェロ?」
練習終わりの茜色の空。辺りも綺麗なオレンジに染まっていて、あったかい。
そんな中に、大好きな君を見つけた。
「どうかしたのか?」
止まって僕が追いつくのを待ってくれている。その優しさが、僕だけに向けられればいいのにって、何度思ったかな。
「姿が見えたから一緒に帰ろうと思って」
「そうか。なら早く帰ろう。今日の夕食はマルコが作るらしいからな。
そういえば午前中、美味しいクッキーが買えたんだ。アンジェロ、甘いもの好きだろう?」
クッキー……これはチャンスかな?
「じゃあ、夕食の後にラファエレの部屋に行ってもいいかな?」
「あぁ、もちろん!
皆には内緒だからな」
「もちろん!」
人差し指を口元に当てて、僕にウインクして見せる。流石はイタリアのトップモデルだけある。オレンジの光と融けて、まるで一枚の絵画のようで…
「すごく、綺麗」
「ん?」
「あ、いゃ、夕陽が綺麗だから」
「あぁ。確かに綺麗だ」
そう言って夕陽を見つめる君の方がとても綺麗だよ。なんてね。
宿舎に着いた時には、夕陽は低くなっていて、空も段々と暗くなっていった。
マルコの夕食はとっても美味しくて、皆が笑顔になった。もちろんラファエレも。皆がラファエレの笑顔を見つめていて、頬を染めるんだ。あのフィディオでさえ。
思わず手が止まって、フォークをカチャリと皿に置いた。そんな僕の様子に気がついたのは、やっぱり君だけ。
「アンジェロ、具合でも悪いのか?」
「ううん、平気だよ。少し疲れちゃったのかな」
「無理はしないで休んだほうがいいんじゃないか?パスタはちゃんと取っておくからさ」
「ありがとうマルコ。それじゃあ先に戻るね」
残ったパスタをマルコに預けて自室に戻る。ラファエレも心配そうに僕を見ていた。ごめんね、君にそんな顔をさせて。
部屋に着くとすぐにベッドに倒れ込む。いつもは我慢できるのに、今日はダメだった。
君の笑顔を皆が見てる事が、君が僕だけの君じゃない事が…
「我慢…できなかったっ…!」
自分が情けなくて、拳を握り込んだ。掴んだシーツがクシャクシャになったけど、僕の中はそれ以上にグチャグチャだった。
コンコンッ
「……はい」
正直、今は一人でいたかった。誰にも会いたくなかったのに。
「アンジェロ、大丈夫か?」
扉の向こうにいたのが君だったから、なんだか安心した。
「ラファエレ…ごめんね、心配かけて。どうぞ、入って」
「あぁ」
部屋に入ったラファエレは、特に何も言わずにベッドに腰掛けて、手に持っていたモノを僕に差し出した。僕も隣に腰掛けてそれを受けとった。
それは、ほんのりと甘い香りのするホットミルクだった。
「クッキーは無理だろうから、これを持ってきた」
「ありがとうラファエレ。いただきます」
一口飲むとホッとした。ラファエレの優しさが溶け込んだみたいに暖かい。
「アンジェロ、悩み事とかあったらいつでも相談してくれよ?
俺でよければ相談に乗るから」
突如そんな事を言い出すラファエレ。悩み事か…
「なら、一つだけ、聞いて欲しい事があるんだ。ラファエレにしか言えない事が」
「なんだ?」
これを言ったら今の関係は崩れる。でも、自分の気持ちに嘘は付けないから。
「僕……好きなんだ」
「え…」
「僕は…っラファエレが好きなんだ!」
「アンジェロ…」
「男に好き…なんて、おかしいと思ってるよ。気持ち悪いよね。
でも僕、自分の気持ちに嘘はつきたくなっ…!ラファ、エ…レ?」
僕が言い終わる前に、ラファエレは僕を抱きしめてきた。長くて品やかな腕が僕を包み込む。
「気持ち悪くなんかない」
「えっ」
「凄く、嬉しい。アンジェロの気持ちが聞けて」
そう言った君の笑顔は、僕が好きな笑顔よりももっと綺麗だった。
「ラファエレ、僕のこと…好き?」
「あぁ、もちろん」
「キス、してもいい?」
「いいよ」
白い肌に手を添えて、顔を引き寄せてキスをした。柔らかくて、甘いキス。
「ホットミルクの味だな」
唇を離した君は、頬をほんのり染めて照れ臭そうにはにかんだ。
それは誰も知らない僕だけの笑顔。
ミルキィキス
君とのキスは、ミルクよりも甘くてまろやか。
END
−−−−−
ラファエレ受……マイナーな自分乙…