「選ばれし花嫁よ、我の手を取りなさい」

突然俺の前に現れた奴は、長く編まれた髪を揺らしながら宙に浮いていた。手をコッチに差し出して笑ってる。背中には羽みたいなモノがついてる。


「アンタ誰だよ。いきなり出てきて花嫁だ?訳分かんねぇよ」

「なんと、分からないのですか。しかし、これが花嫁の証」


そいつは俺の腕をとって、腕に嵌めてある腕輪に口づけた。さっき無理矢理嵌められた腕輪。『伝承の鍵』とか言われていた。


「伝承の鍵、それは選ばれし者のみが触れることを許されるのです。
あなたは選ばれたのです。あなたは、天空に存在するべき存在なのです」

「存在、するべき…」


そんな風に断言されたのは初めてだった。俺のこの世での存在を証明していたのは、いつも鬼道ちゃんが与えてくれる温もりだった。
けど、最近の鬼道ちゃんは俺から離れていくばかりで、俺に触れてはくれない。温もりをくれない。愛してくれない。存在を証明してくれない。


「俺の…存在を証明してくれるか?」

「おおせのままに。我の名はセイン。さぁ、我の手を」


俺はセインの手を取った。一瞬の浮遊感の後、何かに包まれる感覚。
セインの腕に遮られ、視界に何かを捕らえることは出来ない。
けど聞こえたよ。鬼道ちゃんの叫びが。鬼道ちゃん、俺のこと…愛してくれてたんだね。

END

 
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