※『言の葉』の続きです。




















『ばいばい』

そう告げるお前はとても悲しげな表情を浮かべていた。

『まてっ、行くな!』

触れたくて伸ばした手は空を虚しく掴んだ。そのまま闇にのまれ、お前は消えた。

『行くな…っ、不動ぉぉぉぉ!!』



「っ! は、っはぁ……っ不動…!」

不動が宿舎から姿を消して、今日で丁度一週間。ここ数日はずっとこの夢の繰り返しだ。
一日目は無断外泊の疑いもあった。だが、流石に三日が経つとメンバーの中にも不安が過ぎり始め、監督指揮の元、不動の捜索が始まった。
数人ずつに別れ、各エリアの捜索を開始した。俺は円堂、佐久間と共にイタリアエリアの捜索にあたった。


「不動、どこに行ったんだ」

「とにかく探そう!俺はフィディオ達に聞いてみるから、佐久間と鬼道は街を探してくれ」

「分かった。佐久間」

「あぁ」


別れて行動を開始した俺達。円堂と別れた後、佐久間とも別れ、俺は裏路地に入った。
こんな所にいるとは思っていない。しかし、少しでも可能性があるのなら。

「……やはり…いないか」

路地は薄暗く、ジットリとした空気が漂っている。正直、あまり長居はしたくない場所だ。

「……戻るか」

引き返そうとしたその時…


「コッチにパスだ!」

「まかせろ!」


イタリアの少年達だろうか。歳は俺と同じくらいだろう。薄暗い路地にポッカリと開けた空き地には、サッカーグラウンドがあった。
ユニフォームこそ着ていないが、彼等のサッカーのレベルは高い。そんな中、俺の視界にある一人が止まった。
服装は周りと同じく普段着だ。だが一人だけ、フードを目深に被っていて、まったく顔が見えない。

「アキ!そのままシュートだ!」

アキと呼ばれた少年は口角を上げ、ゴールにシュートを叩き込む。流れるような動きに魅了される。

「あの動きは…」

俺はあの動きを知っている。そばでプレーしたからこそ分かる、アイツのプレー。

「不動っ!」

思わず叫び、駆け寄って、アキと呼ばれた少年の腕を掴んでいた。他の少年達は警戒心剥き出しの瞳で俺を見ていたが、そんなことはどうでもいい。


「不動……不動なんだろ?」

「! ぃ、いゃ…だ…」


不動の名前を出した瞬間、アキは明らかに動揺し、怯えはじめた。
俺は確信を持って畳み掛けた。


「不動、一緒に宿舎に帰ろう」

「やめ…ろ、っ!」

「皆お前を心配してるんだ」

「嘘だっ…!」

「嘘じゃない。帰ろう」


手を差し出すと、震える手の平を差し出してきた。

「き…どぅ、ちゃ…」

手を握る瞬間、確かにそう聞こえた。倒れ込む身体を支え、フードを取る。やはり不動だった。
不動を抱え上げ、少年達を見遣る。さきほどの警戒心は殺気となって漂っている。

「悪いが不動は返してもらう」

誰も口を開かず、ただこちらをジッと見ていた。コチラを伺うような、纏わり付く様な視線。それを振り払うように、俺は路地を抜けた。
後ろで囁かれた声に耳を傾けずに。

「ゴーグルにマント……鬼道有人は敵。俺達から大事なものを奪う……敵」



突如として大切なものを奪われた少年達。十六の歪んだ闘志が、彼等の行く手を阻むこととなる。







引き金

自らを苦しめると知らずに手をかけた。


END

−−−−−
ここからイタリア代表決定戦に繋がればいい……という願望
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