泣いている君を見るのは、その時が初めてだった。オレの記憶の中の君は、いつでも笑顔でオレの名前を呼んでくれる。

『フィディオ!』

君の笑顔が大好きで、オレも自然と笑顔になれた。
テレスと三人でサッカーをしているとき、君はとても楽しそうだった。オレをドリブルで抜き去る動きがとても軽やかで、そんな君にオレは心奪われた。
君がディランを連れて来た時、なんだか心がモヤモヤしていた。今思えば、あれはヤキモチだったのかな。

「ねぇ、マーク」



日本対アメリカの試合。マモルは大切な友達だ。オレ達イタリア代表のために戦ってくれた大切な。でもオレはマモルを応援することは出来なかった。
どうしてもマークに勝って欲しかった。勝った時にマークが見せる、あのキラキラした笑顔が見たかったから。スタジアムに行くことはできなかったけど、画面越しにでも笑って欲しかった。

でもオレの願いが聞き入れられることはなくて、モニターに映ったマークは膝に顔を押し当てて泣いていた。
涙は見えなかった。けど泣いていた。ディランは笑顔でマークを抱きしめていて、ドモンはマークの頭を撫でていた。
そしてイチノセは…


『泣かないでマーク。俺達のサッカーはここで終わりじゃない。
ここから始まるんだ』

『けどっ、カズヤッ…手術っ!』


しゃくり上げるマークを抱きしめて、優しく頭を撫でていた。イチノセの肩にマークの涙が跡をつける。イチノセは何も言わずにただ抱きしめている。
観客やメディアから見れば、チームメイト同士の綺麗な友情。でも俺には聞こえた。イチノセがマークに囁く言葉が。


『マーク』

『なんだ?カズヤ』

『……Ti Amo』

『ティー アモー?』

『なんでもないよ』


笑ってマークの額に小さく口づけたイチノセ。その視線が一瞬カメラを捕らえた。いや、正確にはカメラの奥のオレを捕らえていた。
イチノセは知っていたんだ。オレのマークに対する気持ちを。友情を越えた想いを抱いていることを。だからわざわざあの詞を使ったんだ。
オレが中継を見ていると確信して。オレに、マークには自分がいる。と分からせるために。

「イチノセ……食えない男だ」

これでオレがマークに想いを伝えることは出来ない。だからせめて、画面越しの君に伝えたい。

「Ti Amo……愛してるよ、マーク…」







君に届きはしないけど

オレは想いを伝えるよ。


END

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中継でそんな小さな声が聞こえるわけがない(笑)←
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