「お疲れ」
サッカーの練習が終わった。今日は一段と練習がハードだった気がする。
疲れた。けどそんな事は気にしない。ミーはただ、早く家に帰りたいんだよ。
足早に帰路を進む。驚くほどに人が通らない。ミーの住んでる所は住宅街のはずなんだけどね。
暫く歩いていると、聞き覚えのある声がした。
「ディラン、今帰りかい?」
ゆっくりとした足どりで近付いて来たのはカズヤ。そういえば最近、自宅療養に移った。とアスカから聞いた気がした。
「カズヤ!歩ける様になったんだね!早くミー達とサッカーしようね!」
「あぁ、勿論そのつもりさ。ところでディラン……マークは…まだ、見つからないのかい?」
心配そうな顔で、ミーに尋ねて来るカズヤ。
「大丈夫さ。マークは絶対、ミー達のところに戻って来る!」
……よくスラスラとこんな綺麗事が出てくるなぁ。なんて、ミー自分で感心しちゃう。
「カズヤもそんな暗い顔はノンノン。笑って皆でサッカーするんだって、アスカと四人で約束したのを忘れたのかい?」
「…そうだな。うん。俺、ちゃんと治してサッカーする。もちろん、その時はマークも一緒に」
「オフコース!それじゃぁミー急いでるから」
「あぁ、またな」
遠ざかるカズヤの背を最後まで見送らずに、ミーは更に足を速めた
−−−−−
「ただいま〜」
静まりきった自分の部屋。いつもなら、同じ一日を始めて終えるだけの場所としか思わない。
でも最近は違う。家に帰るのが楽しみで、早く家に帰りたくて仕方がない。
家に帰りたい衝動を抑えるのが、凄く苦しい。
「…ワォ、またこのニュースだ」
最近のニュースで騒いでいるのは同じ話題ばっかりだ。ここ数日の内容はいつだってこう。
《マーク・クルーガー行方不明》
この文字がTVの画面をスクロールしていく。まぁFFIに出場したチームのキャプテンだし、騒ぐのも無理はないと思うけど。
さっきのカズヤに限らず、アスカも監督も、他のチームメイトも…マークのことだけじゃなくて、ミーのことも心配してくれる。
理由は簡単。ミーとマークが恋人だから。でも、マークの行方が分からなくなっても、ミーは全く『悲しい』とか『寂しい』なんて思わないよ。思う方が可笑しいんだ。
「ねぇ、マークもそう思うだろ?」
ベッドに横たわる、ピクリとも動かない身体。綺麗なハニーは艶がない。エメラルドの瞳に光はない。
《マークがいなくなった》
そんなことを言われても、何も感じない。
だって…ミーの、ミーだけのマークがここにいるから。
「ただいまマーク。一人で寂しかったかい?ミーはすっごく寂しかったよ」
返事の返ってこない身体を抱きしめて、日常となった一言を告げる。
「愛してるよ、ミーだけのマーク」
マークはずーっとミーと一緒にいるんだ。
誰にも見られない。誰にも知られない。この場所で、いつまでも。
ずっとずっと
ミーは愛を囁き続ける
END