「好きだ、不動」
「大嫌いだよ、鬼道ちゃん」
「お前を愛してる」
「俺は愛してない」
毎日の変わらない会話。鬼道の部屋の中、巨大な鳥籠。鉄の柵を隔てて、内と外から言葉を交わす。
「お前以外は何もいらない」
「俺はお前はいらない」
「お前がいれば俺は幸せだ」
「お前がいると俺は不幸だ」
俺達の言葉が噛み合うことはない。それでも鬼道は俺に話し掛けることをやめない。
俺達は常に背中合わせの存在だ。
光と影
表と裏
陰と陽
決して向き合わない。相容れない。反発しあう。
「不動、お前は何故俺の言葉を否定する」
「お前が俺を求めるからだ。
なんで鬼道ちゃんは俺に愛を囁くの」
「俺がお前を求めるからだ」
俺のような人間に何を求める。今までろくな人生は歩んでいないし、人を利用して、欺いて。そういう奴らとつるんで、喧嘩の毎日。
FFIで日本代表になるまでは誰も信用しなかった。人を遠ざけて罵倒して。
「お前が俺に求めるモノはなんだ」
何もない俺なんかに。
「俺は…何も見返りなどは求めない。ただお前に側にいて欲しいんだ。
それだけなんだ」
「それは何、同情?哀れみ?偽善?そんなに俺が可哀相?」
「違う!俺はお前が大切なんだ。傷つけたく、ないんだ…」
傷つけたくない……でもさ、鬼道ちゃんにそんなこと言う資格はあるのかよ。
衣服を纏わない俺の身体は痣だらけ。赤、青、紫…みぃんな鬼道ちゃんが付けたんだろぅ?
俺は逃げも隠れもしない。出来ないのに。俺を逃がすまいと俺を痛め付ける。
「俺はいつここを出られる」
「お前が俺を受け入れ、求め、俺に応えればいいんだ」
「嘘は付くな」
「嘘ではない」
絶対に嘘。鬼道ちゃんが俺に投げかける言葉はほとんど嘘。俺が嘘だと思ってるだけで、鬼道ちゃんの言ってることは本当かもしれない。
鬼道ちゃんにとっての本当は、俺にとっての嘘。俺にとっての本当は、鬼道ちゃんには無意味な言葉。
鬼道ちゃんは俺の話を聞かない。でも前に一度だけ、たった一度だけ、鬼道ちゃんが俺を笑顔で抱きしめてくれたことがあった気がする。
サッカーで試合に勝った時より嬉しそうだった。俺があの言葉を言った時。
「鬼道ちゃん」
「なんだ、不動」
「多分俺、いつかはアンタを好きになるよ」
「!……あぁ。俺はいつまでもお前を愛してる」
ほらな。笑ってるだろ。
裏表ラバー
絶対に裏を見ない表。
END