誰かがこんなことを言っていた。

『リニョはホントに純粋ですね』

まぁ誰かって言っても口調で分かるけどな。でもアイツ、このこと知ってんのかよ。

−−−−−

灰色に澱む昼下がり。陽気で俺を照らしてくれる太陽は、雲に隠れて顔を見せない。

「これじゃ気持ち良くシエスタは無理だな」

全身の眠気を含んだ欠伸を咬み殺す。手に持つマントが、どんより重たい風にひらめく。
そんな天気のせいか足取りも重い。こんな日は大人しく部屋にいるのが一番だ。

「シュート!」

と思ったんだが、そうでもない奴もいるみたいだな。
グランドに目をやると、ちっさい黄緑が走り回っていた。
でもいつもと違うのは、アイツが一人で走り回ってるってことだ。
それでもアイツはゴールに向かってシュートを蹴り続ける。
あの小さな身体のどこにそんな体力が有るのか不思議でならない。
しばらくすると、ボールを蹴るのをやめた。さすがに疲れたかと思い声をかけた。


「おーい、リーニョ!」

「あ、エル!どしたの?」


振り向いたのはいつもの笑顔。疲れなんて感じていないような顔。


「ずっと一人でボール蹴ってるからよ、珍しいと思ってな」

「あーぁ、僕ね、今脚を壊してるんだ!」

「……は?」


今コイツ、屈託のない笑顔でとんでもないこと言わなかったか?
脚を壊す?そんな馬鹿な。

「何言ってんだよ。来週だって練習試合あんだろ?冗談きついぜ」

いつもみたいに軽い冗談で、少し経てば『何の話だっけ?』って惚けた顔するんだろ。でも俺の希望なんてちっぽけだった。

「冗談?そんなわけないよ!僕は試合に出たくて脚を壊すんだから!」

リニョの脚はよく見ると赤く腫れていた。十回や二十回のシュートじゃこんなにはならない。


「なんで…そんなこと……っサッカー選手は脚が命じゃないのかよ!?」


クスッ…

「なっ…」

「エル、知ってる?サッカーにはチームワークも必要なんだよ。
僕ばっかりがシュートを打つと、皆やる気がなくなっちゃうんだって。
それでチームワークが崩れて負けちゃう。
だから勝つためには、僕がシュートを打たない。これが最善の方法なんだよ」


最善の方法?そんなわけない。リニョが傷付いてるのに、どうしてそれが善いなんて言えるんだ。


「他に方法があったんじゃないのか?」

「そんなモノないよ。脚は直に治るけど、試合はその時々しか楽しめない。
このこと、メッドには内緒にしてね?今だってごまかすの大変なんだから!」


そう言ってボールを片手にグランドに戻るリニョを、俺は止められなかった。

−−−−−

誰かがこんなことを言っていた。

『リニョはホントに純粋ですね』

アイツのアレは“純粋”じゃない…“異常”だ。
アイツはこれからもあんなことを続けるのか…







不平等な対価

だけど俺も、それを止める術を知らない。


END

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