『聞こえぬ叫び』の続き





風が唸り、雨粒が窓を強く叩く。嵐は激しさを増してゆく。

−−−−−

「結局メッドは来なかったね」

授業も終わり先生もいなくなった教室で、えもんがポツリと呟く。


「………」

「リニョ、どうかしたか?」


授業が終わってからずっと黙ったままのリニョ。
キッドが声をかけると小さく口を開いた。

「僕、メッドいないから今日はつまんなかった…」

リニョは机に置いたサッカーボールに覆いかぶさった。いつもの元気が嘘のように静かだ。


「そうですね。なんだか今日はモノ足りませんでした」

「だな。妙な気分だぜ」


王とエルも煮え切らない感覚にモヤモヤしていた。
そんな中、ずっと窓の外を眺めていたニコフは鞄を掴み、教室の扉に手をかけた。


「おいニコフ」

「メッドが心配だから、先に帰る…」

「それなら俺達も!」

「キッドとエル、リニョは呼び出し…あるでしょ?王とえもんは掃除当番…だから帰る」


自分が帰る理由を明確に話すニコフ。皆、特にキッド達は渋々納得した。

「ではニコフ、よろしくお願いします」

王の言葉にニコフはコクリと頷き、足早に教室を後にした。

−−−−−

メッドが今日学校を休んだのは、きっとこの嵐のせいだ。メッドは水が苦手だから。
泳げもしないし、顔も付けられない。プールの授業がある時は決まって見学していた。
でもメッドはただ水が苦手なんじゃない…嫌いなんだ。
このことを知っているのはリニョと王、それから僕。
“苦手”と“嫌い”、言葉としては些細な違いかもしれないけど、大きく違う。
メッドは特に雨を嫌う。どうしてかは誰も知らないけど、雨の日に彼が外に出ているのを見たことはない。

濡れて重みが増して、変色したマフラーをそのままにメッドの部屋を目指す。
服から、髪から水滴が落ちて床にシミを作っていく。
濡れた服が肌に張り付いて気持ち悪い。それでも、早く彼のところに行かなくちゃ。そんな気がしてならなかった。


コンコンッ

「メッド…大丈夫?」

中から返事はない。ドアノブを回すとカチリと小さい音がして扉が開いた。
中は真っ暗で、雨の音しかしない。気配はある。でもよく見えない。


「……誰、でアル…?」

「メッド…!いるの!?」


暗闇から声がした。確かにメッドの声だ。
その場にいてくれたことに安堵する。でもそれもつかの間だった。


「誰でアル?そこにいるのは…誰でアルか?」

「! メッド、僕だよ…ニコフだよ!」

「誰でアル……っだ、れでアルっ!」


メッドが僕の声が分からないなんて有り得ない。そんなこと今までになかった。


「メッド…分からないの…?君の、親友…ニコフだよ」

「嫌でアルっ…こっちに、来るなぁぁぁぁ!!」

「っう、ぐ!」


メッドの叫びに反応して突風が部屋の中を吹き荒れる。まるで小さな嵐のように。
痛くて目が開けられないけど、よく見ると、メッドの周りだけ風が止んでいた。
桃色の髪や服の裾はまったく揺れていない。恐らくこれはメッドの魔法で、メッドが自分を守ろうとしているんだ。メッドは怯えてるだけなんだ。

「メッド、大丈夫…僕、君の見方だよ」

言葉をかけながらゆっくりと近付く。風が容赦なく口を割り込んでくる。それでも声をかけ続けた。

「安心して。誰も…メッドを一人にはしないよ」

メッドはしゃがみ込み、ずっと黙り込んで耳を塞いでいた。何も聞きたくない。と主張しているように。
メッドの周りに足を踏み入れると風がピタリと止んだ。


「メッド…僕だよ…ニコフだよ」

「ニコ、フ?ニコフでアルか…?」

「うん、僕…ここにいるよ」

「ぅ、っ…ニコフッ…!」


糸が切れたように泣き出すメッド。翡翠の瞳からは涙がとめどなくこぼれ落ちる。
僕より小さな身体を、壊さないようにそっと抱きしめた。


「怖かった、でアル…」

「うん。大丈夫…僕が、いるから」

「ありがとう、でアル、ニコ…フ…」

「安心して……お休み」


精神的に限界が近かったことと、魔力を消耗したことで余程疲れていたのか、翡翠の瞳は閉じられた。
メッドが何に怯えていたのか、何を感じていたのかは分からない。分からないけど、メッドの力になりたい。

「雨を、なくすことは出来ないけど…僕は、君を守りたいよ」

メッドの頬に残る涙の跡にそっと口付けた。規則的な呼吸を聞きながら、今日の出来事は僕だけの胸に留めておこう。と僕は自身に言い聞かせた。







涙雨の秘密

曇る空は彼のココロ。
降りしきる雨は彼のナミダ。


END

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