激しく吹き荒れる風と、地面を打つ水滴。
季節外れの嵐は、着々と彼の心を蝕んでいく。


−−−−−

「うひゃ〜っ、ひでぇ嵐だぜ!
ここまで来るだけで全身ずぶ濡れだ」

「キッドもかぁ。僕も校舎に入ろうとしたら激しくなっちゃって」


教室に入るなり、首のバンダナを外し、水を滴らせるキッドに、先に教室へと来ていたえもんは苦笑いを浮かべながらタオルを差し出した。


「サンキュー!エル、流石のお前もこんなんじゃシエスタは無理だな」

「参っちまうぜ。部屋にいてもうるさくて寝られやしない…
もう俺エネルギー切れそ…『オッハヨー!』…お前はいつでもそのテンションだな…」


シエスタが出来ず机に沈んでいるエル。その言葉を遮るようにリニョが元気いっぱいに教室に飛び込んで来た。その足には泥が跳ねていた。


「リニョ…汚れてるけど」

「あぁ!さっきミニドラと一試合してきたんだ!」

「でも、この風じゃボール…」

「うん!どっか飛んでっちゃった!」


ヘラリと笑うリニョにニコフは小さくため息をついた。
皆の髪や服は水浸し。それに加えリニョは泥だらけで教室の床はグチャグチャだ。もちろん彼が黙っていない。

「皆さん!ちゃんと昇降口で髪や身体の水滴を落として下さい!
服も早く着替えないと風邪を引いてしまうでしょう!」

王はすでに髪を乾かし、着替えも完璧だ。
床掃除のための雑巾まで用意していた。
皆もだらし無く返事をし、ダラダラとだが動きはじめた。
しかし、そこでリニョがあることに気が付いた。

「あれー?メッドは?」

その一言に皆は一斉にメッドの席を見遣った。いつもは王につぎ教室に入っているメッド。しかし今日はその姿が見えない。


「おかしいですね。お休みの連絡は受けていませんが」

「メッドが体調を崩したことなんてあったか?」

「いんや。俺の覚えてる限りじゃねぇな」

「昨日話した時は元気だったよ!」

「いったいどうしたんだろう」

「………」


皆が口々に疑問を出し首を傾げている中、ニコフはただ一人、窓の外の打ち付ける雨を見ていた。

−−−−−

メッドは一人、自室の床に倒れ込んでいた。
床に敷かれた絨毯の紋様をなぞり、誰に届くやも知れない声を紡いでいた。

「雨よ…ソナタはいつ止むのだ…空よ……いつになったらソナタは泣き止んでくれるのか…」

いつ止むやも知れぬ雨音は、流れのままに地に吸い込まれ、その姿を消していく。
そしてそれを見つめる彼もまた…

「流れ行く先は光か闇か…はたまたナニモノも存在しないのか…」

己の見つめる先に、何があるのか。
そのコタエは見つからぬまま、闇に融けていく。







聞こえぬ叫び

それは、誰も聞くことが叶わない心の叫び。


END

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