なんでアイツは愛されて、俺は愛されないんだ…同じ日に生まれて、同じ身体を共有してるのに。
他の奴らと外で笑えるのはアイツで、俺は他の奴らと話すことも出来ない。
お前と俺の違いはなんだ?何が違うって言うんだ…!


−−−−−

「ニコフ、俺出掛けて来るからな」

「ラミちゃんと…デート…?」

「バッ!んなんじゃねぇよ!」


顔を赤く染めたキッドは勢いよく扉を閉めた。

「…素直じゃな、っ!…ぐっ、なん…で…!?」

苦しいっ…これって、まさか…!


「ま、だ…日はたか…っ!」

(いいから引っ込んでろ!)

「がっ………はぁ…甘かったなニコフ。
日は高くても今日は満月…明るくても月は出るんだからな」


やはり甘ちゃんは甘ちゃんか。
さて、これからどうするか…


カチャ…

「おや、どうやら留守だったようでアルな」

こいつは、ドラメッドとか言う奴だったか。確かニコフはメッドって呼んでたな。見るからに鈍そうな奴だ。
留守…ってことは、キッドに用があったのか。


「キッドは、いないけど…」

「そのようでアルな」

「ここで、待つ?」

「いや、またそのうち来るでアル」


メッドはそのまま出て行った。やっぱり思った通り鈍い。全然気付きやしない。


カチャ…

「なんだよ、ちゃんといるじゃねーか!」

赤髪に牛の角…エル、か。コイツはいかにも単純そうだ。


「エル、ちゃんといるって…なに?」

「いや、さっきメッドとすれ違ったんだけどよ」

−−−−−

『よぉメッド!お前の部屋こっちだったか?』

『キッドに用があったのだ。でも留守のようでアル』

『ふーん、そうか。ニコフはいんだろ?
俺もちょっくらアイツに用があってよ』

『…ニコフはおらんでアルよ。ニコフは、な』

−−−−−

「なーんて意味深に言うもんだからよぉ…って、ニコフ?」

「! あ、いや……僕、ちょっと行ってくる…!」

「あっ、オイ!」


アイツ、気付いてやがったのか!?でもそんな様子微塵も見せなかった!
しばらく走るとあちこち跳ねた桃髪。


「いたっ……メッド!」

「おや、どうしたでアルか」


人の良さそうな笑みを浮かべる目の前の桃髪。なんとなく癪に触る笑みだ。


「お前、いつから気付いてた」

「はて、何のことでアル?」

「惚けんな…俺がニコフじゃねぇと、いつ気付いたんだと聞いている」


メッドは、あぁ…。と呟きこっちに向き直った。


「始めからでアール」

「始めから…そんなはずっ!」

「お主は気付かなかったでアルか?」

「何を…」

「我輩、一度もお主に向かって“ニコフ”とは呼んでおらんでアール」

「!?」


確かにコイツ、一度もアイツの名前を呼びはしなかった。それじゃあ、ホントに…


「チッ……てっきり鈍い奴だと思ってたのによ。見くびってたぜ、メッド」

「褒め言葉として受けとっておくでアール」


また笑った。さっきから、見ていてよく笑う奴だ。こういう奴は裏が見えにくい。


「変な奴だな、お前。俺がお前らに友好的だとは限らねぇのによ」

「我輩もよく分からん。
ところでお主、名はなんと言うでアル?」

「俺はニコフと同じ、この身体の持ち主だ。だから俺もドラニコフだ」

「そうか。ではお主はウラニコフでアルな。
お主のことは“ウラ”と呼ぶことにしよう」


よろしくでアール。と手を差し出すメッド。
生憎、お前のペースに巻き込まれる筋合いはねぇんだよ!


「ガゥッ!」

「っ!」


差し出された手に噛み付いてやった。健康的な肌色に紅い雫が斑点のように飛び散る。そそられる。

「俺はアイツもお前らも嫌いなんだよ。次はこんなもんじゃすまねぇからな」

俺がその場を去っても、メッドは何も言わなかった。
その場を動かずに、俺の噛み付いた手を握りしめていた。
唇にわずかに残った紅を舐め取ると、仄かな鉄の味が口の中に広がった。
何の変哲もない味。なのに、なぜだか鉄に紛れた甘い香り。

「……甘ったりぃ…」


ニコフ、メッドを傷付けたのはお前の牙だ。お前の苦しむ姿が目に浮かぶぜ。
満月は何度でも訪れるし、丸い物なんて日常に溢れてやがる。俺は何度でもお前を苦しめる。


「………」

『お主のことは“ウラ”と呼ぶことにしよう』

「ウラ……か…」


メッド、次に会えるのを楽しみにしてるぜ。







紅の香

それは甘く、痺れるように。


END

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