僕は自分が嫌い。物忘れが激しいから。
でも、皆のことを忘れたことはない。
でも怖いんだ……いつか皆を、大好きなメッドを忘れちゃうんじゃないかって。


「メッド〜!」

「リニョ、そんなに慌てなくても我輩はここにいるでアール」


いつもみたいにメッドに抱き着く。うん、分かってるよ。君が僕の前からいなくなったりしないってことぐらい。
でも怖いんだ。僕の記憶はいきなり飛ぶから。
いつ君に、誰だっけ?って言っちゃうか分かんない。


「メッド、僕ね、記憶の回路を治してもらおうと思うんだ」

「…どうしてでアルか?」


あまり表情には出してないけど、メッドは動揺してる。

「僕、嫌なんだ…忘れたくないんだっ、皆のこと」

メッドは何も言わない。そのかわり、僕の大好きな優しい手が頭をゆっくりと一撫でした。


「僕ね、いつも自分が嫌になるんだ。大切なことまで忘れちゃうから。
いつか皆のことも忘れちゃうんだ。って」

「リニョ…」

「皆を忘れるのが怖い。でも、メッドを忘れるのはもっと怖いっ…!」


他のことを忘れていいわけじゃない。でもメッドを覚えていられるなら、忘れたって構わない。


「…忘れても構わんでアール」

「え…」

「我輩を忘れても構わん。だから記憶回路はそままにしてほしいでアル」


なんで…忘れていいなんて…

「っ、メッドはホントにそれでいいの…?
僕は忘れたくないのにっ……メッドは僕が嫌いな…っ!」

僕の頬っぺたに雫が一つ落ちた。雨なんか降ってない。でもこれは、メッドの心の雨。

「我輩だって、忘れて欲しくなどないでアル!
だが、記憶回路を治せば、我輩の知るリニョがいなくなってしまう…そんなの嫌でアルっ!」

メッドの知る僕。それはきっと、忘れっぽくて、うるさくて、手のかかる僕なんだ。
でもメッドはそっちの僕が良いって言ってくれるの?


「ホントに忘れちゃうかもしれないよ?」

「構わんでアール。リニョが忘れてしまうなら、我輩が覚えているでアール」

「! 〜っ、メッド〜ッ!」

「よしよし」


細いけどあったかい腕が僕を包む。この温もりをいつまで覚えてられるかは分からないけど、メッドが僕を忘れない限り、僕もメッドを忘れないよ。


「僕、いつまでもメッドが大好き!」

「我輩も、リニョが大好きでアール」


僕は自分が嫌いだった。でもそんな僕をメッドは好きだと言ってくれた。
だから僕も、メッドの好きな僕を好きになってみよう。







記憶の共有

もし全てを忘れても、君を最初に思い出す。
君が覚えている限り。


END

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