イナズマジャパン戦前夜。私達イギリスは、イナズマジャパンをパーティーに招待した。
目的は対戦前の顔合わせ。そして、ジャパンメンバーの観察。
パーティー等となれば、少なからず気の緩みが出るものだ。
「貴方方にお会いするのが楽しみですよ。
……イナズマジャパン」
約束の時間までは後少し。
数分後、イナズマジャパンのメンバーが会場に入った。
さすがは日本人と言うべきだろうか。約束の時間を前に、キャストは揃っていた。
キャプテンの円堂守と、マネージャーの秋さんを除いては。
イナズマジャパンの面々は、とても分かりやすい。感情を表に出すことを惜しまず、喜びをあらわにする。まだまだ歳相応と言ったところだ。マネージャーの彼女達も例外では無いようだ。
しかし、その中に一人、周りとは違う雰囲気をまとう人物がいた。その人物は、植え込みに身を隠す様にたたずんでいた。
フワリと風に揺れる髪。エメラルドの様な瞳。雪の様に白い肌。
細い指でグラスを弄び、会場の外を見つめる彼。なぜだかは分からない。しかし、彼は私の興味を引いた。
冬花さんに断りを入れ、私は彼に近付いた。
「貴方は、輪の中にはお入りにならないのですか?」
自分に声が掛かると思わなかったのか、一瞬だけ瞳を見開いてから顔だけをこちらに向けた。
眉根を寄せ、不機嫌をあらわにした顔で私を睨みつけている。
そのまま視線を戻してしまった。声を掛けて相手にされないのは初めてだった。だから余計に構いたくなった。
「お一人では退屈でしょう。あちらでデザートなどいかがですか?」
「お一人で結構。俺は大勢で賑やかなのは嫌いなんだよ」
そう言って歩いて行こうとする彼の腕を咄嗟に掴んだ。
「んだよ、離せよ」
彼からの冷めた視線。それだけで、彼が私を拒絶しているのが分かる。
私達には周りの視線が集まるわけで、彼のチームメイトもこちらを見ている。
特にゴーグルの彼からは、殺気にも似た視線を感じた。
「そう怒らないで下さい。可愛らしい顔が台なしですよ」
「っ?!」
手をとり手の甲に口づけを一つ落とすと、彼は目を見開き、その白い肌が徐々に紅く染まった。
その様子が可愛らしく、私はすぐさまフィリップを呼んだ。
「どうしました、エドガー」
「私は今から少し会場を離れる。イナズマジャパンの方々への対応を任せたい」
「承知しました」
「頼んだぞ。それでわ行きましょうか」
「はぁ?誰がお前なんかと…ってオイ!何しやがる?!」
彼のことだ。また視線を反らして私から逃げる。そう思い、彼を抱き上げ会場を抜けた。
ゴーグルの彼からの視線はやはり痛かったが、気付かないフリをした。
腕の中からの罵声を聞き流し、会場近くにある薔薇園へと入った。
「離せよ!降ろせ変態!」
薔薇園に入った途端の変態発言。入る前からもだが、よくこれだけの文句が出てくるものだ。
「…変態とは聞き捨てなりませんね。私は紳士に勤めているつもりなのですが」
「人のこと断りも無く連れ出した奴が何言ってやがる。つーかいい加減降ろせ!」
彼の顔が赤い。あぁ、なんて可愛らしい。
私は彼を噴水近くのベンチに降ろし、彼の手を握った。
「……なんだよ、この手は」
「こうでもしないと、貴方は逃げてしまうでしょう。だからですよ、不動明王」
「! …呼び捨てにしてんじゃねぇよ」
「…驚きはしないのですね。私が貴方の名前を知っていても」
「ぁ?知ってて何が不思議だよ。対戦相手ぐらい、試合前に調べておくのは常識だろ」
なるほど、頭は回る方のようだ。しかし、手を握る事はもっと抵抗されると思っていた。
そのあたり、彼は律儀な面があるようだ。
「つーかなんで俺なわけ?マネージャーでも連れて来ればよかったんじゃねーの?」
「確かに日本のマネージャーの方々は美しい。しかし、私が興味を引かれたのは貴方だ」
顎をすくい上げ、顔を近付けたその時…
「何をしている」
突然背後から第三者の声がした。私から顔は見えなかったが、大体の察しは付いた。
「! 鬼道、ちゃん?」
「不動、大丈夫か?」
「鬼道ちゃん…どっから湧いて出たの?」
「そんなもの、入口付近の植え込みからに決まっている」
「何が決まってんのかわかんねぇよ」
先程パーティー会場で、私に殺気を送っていたゴーグルの彼。確か名前は鬼道有人。
「鬼道有人、いきなり割り込んで来て、人の愛の告白を邪魔しないでいただきたい」
「告白、だと?不動、この変態に告白されたのか?」
「変態ではない!」
何故ほぼ初対面の彼に変態呼ばわりされなければならないのですか。
「や、その…告白、と言うか…」
「……されたんだな?」
「は、ちょっ!鬼ど…っん」
「っ!?」
彼の行動は鮮やかだった。不動くんのシャツを掴み、その唇を奪った。
好意を寄せている相手と自分以外の口づけ。本来ならば見てはいられない。
「んっ…き、ど…ちゃっ」
しかし、鬼道有人を感じる不動くんがあまりにも魅惑的だった。だから私は、邪魔することも、逃げ出すことも出来なかった。
「っふ…ゅ、ぅと…」
「!…すまない不動。エドガー、これで解ってもらえただろうか?不動明王は俺のものだ」
鬼道有人は唇を離すと、足のふらつく不動くんを支えながら、私に向き直った。
「だから不動のことは諦めてくれ」
いささか鋭くなった鬼道有人の視線。しかし、それぐらいのことで諦めるほど、英国紳士はやわじゃない。
「諦めませんよ」
ゆっくり鬼道有人に近付く。正確には彼の抱く不動くんに。
「不動に近付くな!」
鬼道有人が声を荒げるが、今の私にとって彼は対象外。
「私の気持ち、覚えておいてくださいね」
チュッとリップ音が残る様に、不動くんの頬に口づけた。
「っ!」
「なっ!?」
不動くんは手の甲に口づけた時よりも顔を赤らめ、鬼道有人も驚きを隠し切れず声を漏らした。
「貴方は今、鬼道有人のものだ。だから頬(ここ)で我慢を致しましょう。
しかし、いつか必ず奪ってみせます。その時はここにしてさしあげますよ」
自分の唇に人差し指を当てれば、不動くんの顔が更に赤みを増した。
「…絶対に渡さない」
そんな不動くんを隠すように鬼道有人が抱きしめる。独占欲が強すぎますね。
「今日のところは、パーティーに戻ると致しましょう」
踵を返して、薔薇園の入口まで戻る。背中にはずっと鬼道有人の視線が刺さっている。
薔薇園入口の植え込みは青い薔薇。
青は白によく栄える。
「貴方にも、この青がきっと似合いますよ」
先程まで触れていた、白い肌を思い出しながら、摘み取った一輪に口づけた。
儚い白に
魅惑を一色添えて
END