「明日、日本を発つ」

「へぇ…そうなんだ」


突如伝えられた別れの合図。
いや、突如、ではない。以前から薄々は感じていた。
イナズマジャパンとして世界を制してから、俺達選手は多かれ少なかれ、注目されていた。
その中でも際立っていたのは、円堂、豪炎寺…そして鬼道くん。
MFとしての技術、何よりも、その天才的なゲームメイクの才能が評価されていた。
鬼道くんは決まって『お前がいるからこそ、俺のゲームメイクは完成する』と謙遜していた。
でも知ってる。俺なんかいなくても、鬼道くんのゲームメイクは完璧だ。
分かる…ずっと隣で見てきたから。
そして、イタリアリーグからのスカウトがきた。
皆で鬼道くん家に集まって、祝賀会を開いたのが、つい昨日のことのようだ。
あの時は、柄にもなく泣いてみたり、しがみついてみたりして…
覚悟はしてたはずだ。海外からの誘い。日本を離れるのは必然だった。
それでも、俺は心のどこかで期待していた。
鬼道くんは日本に残ってくれるんじゃないかって。
でもそんなの甘すぎる夢で、鬼道くんは明日日本からいなくなる。
俺の隣から、いなくなる。
だから、笑顔で送り出そう。とは思っていなかったけど、心配は掛けないように、とはそれなりに考えていた。
でも本能は寂しさに正直で、素っ気ない返事しか出来なかった。
それを知ってか知らずか、鬼道くんは何も言わずにこっちを見つめている。
不意に、鬼道くんが少し唇を引き結んだように見えた。
そして、アイガードの形状になったゴーグルを外す。
いきなりの行動の意図は俺には見えなかった。
けど、ルビーみたいに綺麗な緋がまっすぐに俺を捕らえていた。


「不動」

「なに?鬼道くん」

「………」

「鬼道く…っ!」


黙ってしまった鬼道くんに近付くと、抱き寄せられた。
いつもされてることなのに、いつも以上に心臓がドキドキするのは…なんでだう。


「鬼道くん…苦しいんだけど」

「…すまない」

「謝るなら離してほしいんだけど…」


嘘だ。嫌だ。ホントは離してほしくなんかない。ずっとずっと抱きしめていてほしい。
ずっとずっと、そばにいてほしい。

「離したく、ない。本当はお前も連れて行きたいっ」

そう言って腕の力を強める鬼道くん。
嬉しい。俺と同じ気持ちでいてくれて。
でも一緒に行けないってことは、誰よりも俺達二人が分かってる。


「……待ってる」

「!…不動…」

「待っててやる。けど、向こうで美人に引っ掛かったら即効別れるから」


そう言ってやれば、鬼道くんはいつものような自信たっぷりの笑みを浮かべた。


「なら、別れる心配はなさそうだな」

「えらく自信満々なご様子で」

「当たり前だ。なんせ俺は、お前以上の美人を知らないからな」


よくそんな恥ずかしい台詞を、と思いながらも、満足感を覚えている俺は、相当こいつが好きらしい。


「不動、キスしていいか?」

「…聞かなくても分かってるくせに」


重なる小さな温もりを何度も絡ませる。
これからの時間を少しでも埋めるように。


−−−−−

「って感じだよ」

『お前は絶対にイタリアについて行くと思ってた。って佐久間がいってたぞ』

「んなわけねぇだろ。俺も俺でやることあったし」

『そうか。アイツも今じゃイタリアリーグのスター選手だしな』

「変な眼鏡掛けてんのに、あんなののどこがいいんだか」

『不動、お前がそれを言うな』

「まぁいいじゃねぇの。んじゃそろそろ切るわ。
またな源田……佐久間幸次郎さん」

『なっ!ちょ、ふど…』


プツッ

久々の源田は相変わらずで、話してて楽しくもあり、懐かしくもあった。
鬼道くんがイタリアに行って早くも二年が過ぎた。
アイツの活躍は目覚ましくて、一年目からすでに注目株だった。
そんなアイツが、帰ってくる。
どうやって出迎えようか。
美味しいディナーを作ろうか、少しお高いワインを開けようか、新しいサッカーボールをプレゼントしようか、皆の現状を報告しようか…


ピンポーン


「!…なんだ、予定と違うじゃねぇかよ…」

夜に着くはずだ、と言われ考えた計画は、本人のノープランなご帰宅によりおじゃんである。

「まだ準備してねぇっての」

それでも笑顔で走り出している俺は重症だ。
とりあえず今は、思いっきり抱きしめて、たくさんキスをしてやろう。


「…ただいま」

「…待ちくたびれたぜ…!」


お互いの肩が濡れたのは、二人して知らんぷりした。







tear of reunion

もっとよく顔を見せて。
もっと強く抱きしめて。
もっとたくさん口づけて。
もっと、ずっと、そばにいて。


END

 
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