「ふぅ…後少し」

今日は久々に部活が無かった。日直だった俺は、皆が帰った教室で一人、当番日誌を書いていた。

ガラッ

「あ、いたいた」

教室後ろのドアが開いたと思うと、チームメイトが一人、顔を覗かせていた。

「星降?西野空達と帰ったんじゃなかったのか?」

「いや、そのつもりだったんだが、隼総が宵一持って行っちゃったんだ」

「持って行ったって…」

「なんか叫んでたけど無視してみた」

こちらに歩み寄って来る星降は、悪びれた様子も無く言ってのけた。少し笑みも浮かんでいるように見えて、そんな様子にため息が一つ零れた。

「お前なぁ…恋人なんだろう。もっと大事にしてやれ」

「まぁまぁ。たまには離れることも必要だ」

ニコリと笑んで俺の前の席に座る星降に、もう何も言うまい。と思った。
しかし、彼は知っているのだろうか。

(隼総が西野空に抱く想いを…)

隼総は見ていて、色恋に疎い俺でも分かるくらいに西野空にアタックしている。しかし、それはうまい具合に星降の視野外なのだろう。なら知らなくても納得がいく。
しかし、目の前で連れて行かれたなら、気が付いてもいいと思うが。

「ねぇ喜多」

「なんだ」

「俺知ってるよ?隼総が宵一を狙ってる。って」

「!」

変わらずペンを走らせていた手がピタリと止まった。その原因である発言者は、椅子の背もたれを抱え込み、俺の机に頬杖をついていた。
口元はわずかに弧を描き、目は艶やかに細められている。西日によって照らされた横顔は妙に絵になっていて、星降のイヤーカフがキラリと存在を主張した。
今の星降は何を考えているのか分からない。まったくと言っていいほど。

「星降、お前は西野空が好きじゃないのか?」

「おかしなこと聞くね。好きに決まってるよ。
好き。大好き。愛してる。なんなら四六時中ずっと一緒にいたいさ」

「しかし、隼総の気持ちを知っていると…」

自分の恋人が狙われているにも関わらず、この落ち着きようはなんだ。
焦りも、怒りも、悲しみも、嫉妬もない。

「……確かに宵一は大好き。でもさ、今回のことで宵一の心が揺らがないとも限らない」

「……信じて、ないのか?」

「信じて……いや、信じたい。って言った方が正しいかな。
宵一も俺が大好きで堪らない。って。でも、時々凄く不安なんだ。
隼総は俺より背も低くて可愛いし、感情表現もストレートだ。明るくて、勝ち気で、魅力がたくさんある。
だから不安なんだ…宵一が簡単に取られちゃいそうで」

そう言って俺の机に突っ伏した。茜に染まった髪が無造作に投げ出された。
正直驚いた。俺はこんな星降を知らないから。星降はいつだって西野空の隣にいて、優しく微笑んでいた。背格好なんて気にせず、愛しげに西野空の頭を撫でていた。
そんな星降がこんなにも考えこむなんて、よっぽど隼総との差を感じているのか。しかし…

「…そんなに卑屈になることはないと、俺は思うぞ」

「喜、多?」

「高い身長。長い髪。深緑の瞳。白い肌。どれも星降、お前の良さだ」

見開かれる瞳。きっと髪に隠れた左目も同じ様になっているだろう。
それがなんだかおかしいような、可愛いような気がして自然と頬が緩んだ。そして、今は自分より低い位置にある頭に手が伸びた。

「高い身長だって、こんな風に座れば気にならない。髪は艶があって触り心地もいい。
瞳も輝いていて、肌も綺麗じゃないか。それに…」

左目にかかる髪に手をかけると、ビクリと小さく肩が跳ねたのが分かった。

「ここに隠れた左目だって、きっと綺麗だ。
不器用でもいいじゃないか。感情を上手く表現出来なくても、それがお前だ。俺は可愛いと思う。そういう星降」

きっと西野空は全部分かっているんだろう。それを口に出さないだけで。
しかしそれがあだとなっている。星降はもっと表に出した愛情表現を求めてるんだ。自分への愛情が端からでも分かるように。

「喜多…」

自然と上目遣いで見つめてくる星降。その気はないのだろうが、僅かに潤む瞳。夕日のせいではないと分かる、仄かに赤らむ頬。
勝手な憶測ではあるが、恐らく西野空はこんな星降を知らない。恋人を大事にしてやれ。と言いながら、俺は今、まさにそれを奪おうとしている。
なぜだか罪悪感というものは、これっぽっちも感じなかった。

「星降、不安なら…それを捨てるのはどうだ?」

「不安を、捨て…る…」

「そうだ。俺に、すべてを委ねてみないか?」

「え…」

段々と近くなる俺達の距離。驚きはするが、星降は動かない。手を重ねると、自然と指が絡まった。

(すまない、西野空…)

心の中で形だけの謝罪を述べ、目の前の愛しい存在を感じた。







恋愛リベラリスト

誰にも指図は受けない。
誰にも文句は言わせない。
それがリベラリスト。


END

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ピンクに近い長い髪、ミステリアスな片目、fwなのにあの目立たなさ……こんな可愛い子が攻めなはずがない!←
しかし受けは見ない不思議……くっ!やはり私はマイナーなのか…!
裏のある喜多くんが好きれす(*´д`)
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