「俺、昨日、真田君に告ってん」

「……へぇ」

「ちょっ!リアクション薄ない?!」


合同合宿2日目の夜、同室の白石が急に真剣に話し出すものだから、何の話かと思えば…


「思ったより普通な内容やったから」

「あれで普通って…お前は何なら驚くねん…」

「内緒や。で、返事は?」

「え、ぁ…オッケーやて」


堪えきれない笑みを零しながら語る白石。
ニヤケていて、なんとも気色が悪い。


「気色悪いからさっさと真田んとこ行け」

「ひどっ!…けど、えぇんなら行って来るわ!」


片手に部屋の鍵を握りしめ、真田く〜ん♪とスキップしながら、白石は部屋を出て行った。
そして一人になる。

「……っ…白石の、アホ…」

押し込めて、押さえ付けて、閉じ込めていたモノがドッと溢れ出す。
目頭がジワジワと熱くなってきて、視界が悪い。

「だれっ、か……っ誰か…!」

誰でもいい、助けてほしかった。
でもここでタイミング良く誰かから連絡が来たり、訪ねて来たりしたら漫画みたいな話だ。

「夢…見すぎや、な」

自嘲気味な笑いが零れる。
自分はいつからこんなにも女々しくなってしまったのだろうか。

コンコンッ

誰だろうか…大方、白石に用がある部員だろう。
目元を拭って扉を開けた。


「誰や?」

「俺様だ」


予想外過ぎる人物。
まぁ部長同士ということを考えれば、何も不思議なことはないが。


「跡部…すまんけど、今白石おらへんねん」

「あぁ、さっき気色悪い笑顔でスキップしてやがったな」


あぁ、やっぱりあれは誰が見ても気色が悪いのか。
妙に納得しながらも、同時に跡部に疑問が浮かぶ。


「なら、なんで来たん?」

「………」

「跡部?なぁ、どないして…っ!」


突然扉を閉められ、腕を引かれた。
ベッドに投げ出されて、顔の横に両手を、両脚の間に片膝をつかれた。
両手が自由なのに身動きが取れない。
鋭いアイスブルーの瞳が、真っ直ぐに俺の目を見つめていた。


「あと…っべ?」

「泣けよ」

「な、何言うとんの?
なんで俺が泣かなあかん『白石と真田だろ』っ!?」


なんで…どうしてすべてがわかってしまうのか。


「お得意の、インサイト…か?」

「んなもん必要ねぇ。
お前のことだ、わかるさ」


そう言いながら、跡部は俺に唇を落とした。
触れるだけじゃない、深く、陥れるように甘く。
不思議と嫌な気分はしない。
唇を伝って、跡部の優しさのようなモノが流れ込んで来る。
唇を離されると同時に、涙が溢れた。


「ふっ…ぅ、っ」

「全部吐き出せ。俺様が受け止めてやる」


なぜだろうか…この、跡部景吾という男なら、自分のすべてに触れてくれる気がした。

「ぉれ、かて…好き、やってん!
俺のが、そばっおったんに…ずっと…ずっと!」

涙は止まることを忘れたように溢れ続ける。
顔を見られたくなくて、手の平で隠すと、その手は跡部の両手に捕まった。

「あんな奴、忘れちまえよ。
これからは俺がそばにいてやる」

瞼に触れるだけの口づけを落とされた。
見上げれば、鋭かったアイスブルーが柔らかに笑んでいた。


「お前…ほんま、えぇ男やで」

「あーん?今更気づいたのか?」


勝ち気な笑みがどことなく安心する。
アイツとコイツは似ている。
性格や仕種じゃない、雰囲気が。

「俺、未練がましいで、無意識にアイツを考えてまうかもしれへんで?」

そう言えば、髪を撫で付けられて、またあの勝ち気な笑み。

「無意識になる暇さえないくらい愛してやるよ」

大した自信だと思いながらも、それがコイツだと納得してしまう。

「今は、ごめんやで」

しがみつくように抱き着けば、何も言わずに抱きしめ返してくれた。
俺の肩口が濡れていたのは気付かない振りをした。







卑怯者の独奏歌

一番の卑怯者は、お前にアイツを重ねる俺。


END
−−−−−
コイちゃんが報われないパターンは初めてかも。
そして跡部が一番可哀相w
嫌いじゃないよ。前よりは大丈夫になった!←
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