「ねぇ、鬼道ちゃんって初恋いつ?」

「……なんだ急に」

「少し気になっただけ。あ、妹ってのはなしな」


いつもの様に二人でくつろいでいる時、唐突に聞かれた初恋。確かに不動より前にも、大小様々だが、好きという感情は経験したが…

「初恋か……考えたこともなかったな」

だが、俺の初恋は恐らくあの時だ。

まだ俺が帝国学園のキャプテンで、練習試合をしに愛媛に行った時だった。愛媛の学校は幾つか知っていたが、その学校は無名で雷門よりも弱小だと聞いていた。
しかし、その考えが浅はかだった。前半はいつものように順調に得点を納めた。だが後半、投入された一人のMFによって試合の流れが変わった。
選手一人一人の動きが格段に良くなり、帝国のパスが通らない。

「っ! なん、だと…」

気付けば一点差。ゴール前にボールを持ち込んだのは、あのMF。

(取られるっ!)

そう息を呑んだ瞬間…

ピッ ピーッ!

試合終了のホイッスルが鳴った。MFは残念だと言わんばかりの顔でゴールを見つめていた。

試合の後、俺はMFと話がしたくて愛媛側のベンチへ近寄った。


「凄いな、お前のプレーと采配は」

「あ?」


こちらを向いた顔に少し驚いた。男とも女ともとれる中性的な顔をしていて、思わず見とれていた。


「あんた、向こうのキャプテンだよな」

「あ、あぁ。そうだが」


声からして男だろう。深い碧の目が俺の姿をハッキリと写した。

「俺、あんたのサッカー嫌いだ」

意志の強い口調。少し怒気も含んでいただろうか。

「サッカーを楽しまない奴とサッカーしても時間の無駄だ」

そう言い残し、彼等は去って行った。去り際、色素の薄い彼の髪がフワリと揺れた。
自分のサッカーを否定されたのは初めてだった。だが不思議と苛立ちはしなかった。それ以上に彼の存在が刷り込まれていたらしい。

−−−−−

「…−…ちゃ、!鬼道ちゃん!」

「! な、なんだ?」

「急に自分の世界入んなよな」

「あぁ、すまない」

「で、初恋は思い出した?」

「まぁ、一応な」

「どんな子?」

「どんなって…愛媛で練習試合をした子だ」

「そうじゃなくて、見た目的に」

「見た目は、色素の薄い髪に深い碧の目。気の強そうなタイプの男だ」

「ふーん……ソイツに『サッカーを楽しまない奴とサッカーしても時間の無駄だ』って言われたわけだ」

「あぁ、そうな……なんでお前がそれを…!」

「さぁね♪」


意地の悪い笑みを浮かべる不動に顔が熱くなった。

END
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