「はぁ…っ、健ちゃ…どこっ」
一方、白石は未だに小石川を探し校舎を走り回っていた。
後数分で授業が始まるとあって、廊下は殆ど無人だった。
そんな中、白石は前方に見慣れた人物を捉えた。
「千歳!」
「おっ?白石、どぎゃんしたと?
もうすぐ授業始まるったい」
「あぁ、今はえぇねん。そういう気分やねん。
ところで千歳っ」
「よかよか。たまには休息も必要やけん。
俺もこれからお昼寝n『お前は休みすぎや』
「ちゅーか、お前の話はどーでもえぇねん!」
「案外酷か男ばいね、白石…」
どーでもいい。と言われ、千歳は少なからずショックを受けていた。
しかし、そんな千歳を微塵も気にする様子もなく、白石は用件を口にした。
「お前、歩いとる途中で健ちゃん見ぃひんかった?」
「健ちゃん?……あぁ、小石川さんのこつやね。
小石川さんなら教室の方歩いt『おおきに!』…」
白石は千歳の言葉を遮り、小石川の教室へ向け駆け出した。
「白石、足早かねぇ。謙也といい勝負ばい」
白石の姿が視界から消えると、千歳は携帯を取り出し、どこかへ電話をかけた。
『遅い。暇や。疲れた』
「すまんばい。今すぐ行くばってん、鍵は開いとっと?」
『あぁ、やから早く』
「はいはい」
相手の催促に苦笑を零しつつ、千歳は電話を切り歩みを進めた。
目指すは屋上へと続く階段。
−−−−−
キィッ…
「お待たs『遅い』開口一番それはなかよ」
屋上の扉を開けた千歳は、姿の見えない少女からの言葉に苦笑を零した。
「して、今日はどぎゃんしたと?」
問い掛けながら、千歳は扉の死角に近付き、小石川の姿を捕らえると隣に腰を下ろした。
「あん時…ウチが泣いとった時、白石に見られてたらしいねん」
千歳に用件を話す小石川は、自然と一人称が代わっていた。
それほどに小石川は千歳を信用していた。
「…そうか。ばってん、泣いちょった理由は知らんとやろ?」
千歳の問いに、小石川はコクリと頷いた。
「せやけど、見られてたなんて…
なんや悔しくて…つい、怒鳴ってしもてん…」
膝を抱え込み、俯く小石川。
千歳はそっと小石川の頭を撫でた。
「気にすることなか。
白石は、そげなこつでどげんかなる男じゃなかよ」
「せやけど…」
「現に、今も健ちゃんば探し回っとっとよ?」
「えっ…」
驚きと戸惑いの表情を千歳に向ける小石川。
唇を噛み締め、再び俯いた。
「ウチ…白石に謝る」
気をつけていなければ、聞き逃してしまいそうなか細い声。
千歳は小さく微笑み、立ち上がった。
「思いたったがなんとやら。
そうとなったら今から行くばい。」
「はっ?今授業中…」
「そげな小さかこつはよかよか。
それに、多分白石も授業は受けちょらん。
健ちゃん探し回っとる」
だけん、ほら。と千歳は小石川の手を掴み立ち上がらせた。
「俺が白石ば連れてくるばい。
健ちゃんは、どっか空いちょる教室におって」
「…わかった」
千歳に手を引かれ、小石川は屋上を後にした。
−−−−−
「ほんならウチ、ここにおるわ」
小石川は、あまり使われておらず、鍵の掛かっていない特別教室の前に止まった。
「ちゅーか、白石呼ぶなら電話でえぇんとちゃうの?」
「あー……そんな方法も有ったばい」
苦笑を零す千歳に、小石川はわざとらしく溜息を吐いた。
「あはは…今電話するばい」
千歳は小石川から少し離れ、白石に電話をかけた。
「あ、白石?健ちゃんば見つけt『どこや!?』…人の話しは最後まで聞きなっせ」
どうやらすぐに繋がったらしく、電話口からは白石の声が漏れていた。
既に授業が終わっているせいか、教師の注意等も聞こえない。
それを聞いていた小石川はクスリと笑みを零した。
いつもは見せない表情を浮かべていた……隙を見せていた。
「ほんま、阿保やな…っ!」
突如後方から布で口を塞がれた小石川。
もがくも力が入らず、抵抗が出来ない。
「(あか、っ…ちと、せ……しらぃ…)」
微かな浮遊感を覚えながら、小石川は意識を手放した。
「わかったと?早くこっちに……あれ…」
『千歳?どうかしたんか?』
「健ちゃんがおらんばい……あるのは上履きが片方…」
『っ!……千歳、片っ端から行けや』
「言われんでも」
自然と声のトーンが下がる二人は電話を切り、走り出した。
−−−−−
「ん…ここは…」
「気がついた?小石川健さん」
「あんた…転校生の…」
「えぇ、同じクラスの三条麗よ」
以後おみしりおきを。と微笑む三条に、小石川は心の底から断りを入れた。
今小石川がいるのは、普段は物置として使われている空き教室。
利用する者など滅多にいない。
「で、その三条さんが俺に何の用や」
「あら、わからない?」
「見当もつかんな」
そう言えば、三条の眉間にシワが寄せられた。
「単刀直入に言うわ…貴女、邪魔なのよ」
「は?」
「だから、邪魔なのよ。
いつも白石くんの側をウロウロと…!
白石くんだって迷惑なんだから!
王子だかなんだか知らないけど、調子乗ってんじゃないわよ!」
正直なところ、小石川は呆れていた。
いつも側をウロウロされて迷惑しているのは、むしろ自分であると。
しかし、それを自分の前の人物に言ったところで無駄であると。
「別にウロウロなんかしてへ『いいのよ、弁解なんて聞いてあげないから』…人の話しは最後まで聞けや」
「貴女の話しなんかどうでもいいの」
三条は片手を持ち上げ、指を一つ鳴らした。
すると、今までどこに潜んでいたのか、数人の男子生徒が姿を現した。
「っ!?」
先読みが出来た小石川は目を見開き、肩を小さく揺らした。
「…転校して日も浅い言うんに、もうこんなタラシ込んだんかいな」
しかし、それを悟られぬよう気丈に口を開いた。
「そう……アンタ達、やっちゃって」
三条の声を合図に、男達は小石川の身体に触れた。
「っ…触んなボケッ!
離せ…っ!」
抵抗を試みるも、人数と力の差に押さえ込まれてしまう。
そして、一人が小石川のシャツを無理矢理に引き裂いた。
「いゃ…っ!ち、せ……白石っ…!」
小石川の頬に涙が伝った。
その時…
ドザーッ!!
「な、何?…何が起こったのよ!?」
突如、けたたましい音と共に小石川達のいた教室の扉が吹き飛んだ。
小石川に触れていた男子生徒も、三条の元へ下がった。
巻き上がるホコリの中、二つの人影が浮かび上がる。
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