※四天で家族やら先生やら。




















一番大切なのは誰?



「謙也!いつまで俺の健二郎に抱き着いとんねん!?」

「健二郎は俺のやもん!」

「蔵も謙也も、朝から喧嘩すんなや…忙しいねんから」


親に抱き着く子供。普通に考えれば、不思議なことは何一つない。
しかし、この家、白石家は違った。


「お前はいっつもいっつも健二郎にベタベタし過ぎや!」

「蔵やって、いっつも健二郎にべったりやないか!」


子供を母親から引き離そうとする父親、白石蔵ノ介。
母親に抱き着き父親に反抗する息子、白石謙也。

「蔵、謙也、今日休みとちゃうねんから、遅刻してまうで?」

そして二人に朝の準備を促す母親、白石健二郎。
男だが、蔵ノ介も謙也も些細なことだ、と気にしてはいなかった。

「Σ! じゃあ健二郎、行ってくるで」

蔵ノ介はチュッとリップ音を軽くたて、行って来ますの意をこめて健二郎にキスをした。


「……あほぉ…」

「!(かわえぇっ!…いやいや、今は我慢や!)」


少しキスをしただけで顔が真っ赤になる健二郎。
蔵ノ介は、朝から襲いたくなる衝動を必死に抑えた。


「じゃ!」

「いってらっしゃい!」


健二郎の笑顔に見送られ、蔵ノ介は仕事に向かった。


「よし、ほんなら謙也も幼稚園行こか」

「おん!」


健二郎と謙也は手を繋ぎ、幼稚園へと向かった。





「ケン坊、謙也くん、おはよう♪」

「おはよう小春」

「小春先生、おはようございます!」

「おはよう♪謙也くんはいっつも元気やねぇ。
流石、ケン坊の子やわぁ♪」


健二郎をケン坊と呼ぶ人物。謙也のクラスの担当保父、金色小春。
健二郎とは中学時代に同じ部活に入っていた、と謙也は聞いていた。

「にしても小春、いい加減その『ケン坊』ってのやめへんか?」

中学時代からの変わらぬ呼び方に健二郎は苦笑を零した。


「あら、私にしたらケン坊はいつまで経っても可愛いケン坊よVv」

「可愛いとかぬかすな!…はぁ…ほんなら謙也、えぇ子にしとるんやで?」

「おん!早う迎え来てな!」

「おん」


これ以上何を言おうとも小春には通用しないと判断した健二郎は、謙也の頭を撫で、幼稚園を後にした。





「ふぅ…二人とも送り出したし、俺も早う仕事行かな」

家でしっかりと家事をこなしつつ、健二郎も仕事勤めをしていた。
時々疲れからか体調を崩すこともあったが、本人は充実していると感じていた。
しかし、仕事前はやはり家のことを考えてしまうもので…

「はぁ…なんであの二人は朝から原因不明の喧嘩すんねやろ?
朝は忙しいから、面倒なことはない方がえぇねんけど…まぁ慣れたしえぇか。
今日は早く帰れそうやから、二人の好きなモン作ったろ」

夕飯の献立を考え、一人笑みを零しながら健二郎は仕事場へと向かった。





「おはようございます」

『おはようございます!』


蔵ノ介の仕事はモデルだが、最近は俳優としても活動中の超売れっ子。
今日は俳優としてドラマの撮影に来ていた。


「白石、おはようさん」

「千歳!何年ぶりや?」

「中学以来やけん、5年ぶりやなか?」


蔵ノ介に千歳と呼ばれた人物、俳優の千歳千里。
千里とは中学時代の部活仲間で、もちろん蔵ノ介と健二郎の関係も知っていた。


「最近どう?」

「何がや?」

「何がって…小石川と謙也くんのことたい」


千歳にとって健二郎は、大切に想っていた人物。
自分以外と一緒になった今の生活が気になっていた。


「あぁ、健二郎は特に変わった様子はない。強いて言うなら前より美人になったな。
謙也の奴は更に生意気さが増したと…今日も朝から俺の健二郎にベタベタベタベタと…!」

「確かに小石川、綺麗になったばい」

「やろ?やっぱりそうやろ?」


千歳も健二郎が綺麗になったと感じていた。
大切に想うからこそ分かる些細な変化ということだろう。

「で、それはまた後で…小石川は謙也くんの親なんやから、ベタベタぐらいよかことやなか?
まだ幼稚園で、甘えたい年頃だと思うばい」

蔵ノ介もそんなことは分かっていた…しかし…


「でも嫌や…健二郎は俺のや…」

「謙也くんより子供ったいね、白石」


今の蔵ノ介に有るのは、子供のような格好悪い独占欲。
でも、どんなに格好悪くてもいいから、健二郎だけは譲れないと思っていた。


「とりあえず上手くいっとっと?ばってん、俺はいつでも健二郎を奪う準備はできちょるから、それだけは覚えとくったい」

「まだ諦めてへんのか!?」

「もちろん♪俺、今でも健二郎んこつ好いとぉよ」


千歳もずっと健二郎が好きだった。
健二郎の気持ちが自分から離れることは100%ない、と蔵ノ介は確信を持っていたが、一番気をつけるべき人物であることは確かだった。


「絶対渡さへん」

「俺も諦めん」


千歳の諦めが悪いのは良いところだと思っていた蔵ノ介だが、この時ばかりは軽い障害に感じた。


『白石さん、千歳さん、スタンバイお願いします!』

「あ、ハイ!ほんなら行こか」

「あぁ」


千歳の言葉もあり、蔵ノ介の頭には健二郎のことが溢れていたが、今は仕事に集中すべきと頭を切り替えた。
しかし蔵ノ介は考えた…謙也の幼稚園のことを…

「(あそこには小春が勤めとる。小春は心配あらへんけど、ユウジも勤めとる…問題はそっちや…)」

謙也の幼稚園には小春の他にも中学時代のチームメイト、一氏ユウジがいた。
彼もまた健二郎に好意を寄せていた。
蔵ノ介は願った、一氏が健二郎を諦め、小春一筋に返り咲いたことを。





「よっ!」

「おはようユウジ!」

「先生を付けんかい!」


謙也に呼び捨てにされた保父、一氏ユウジ。
小春と並びこの幼稚園で人気があるが、なぜか園児にため口を使われてしまう。


「なぁ謙也、健二郎は元気か?」

「健二郎?もちろん元気やで!」

「さよか、なら良かったわ」


嬉しそうな、悲しそうな顔で笑った一氏だが、それがなぜだかは謙也にはまだ分からない。
そこへ小春がやって来て、謙也を抱き上げた。


「謙也くんはケン坊のこと好きなんよね?」

「おん!大好きやで!」

「ふふっ♪それと同じくらいユウくんもケン坊が大好きなのよ♪」

「Σなっ!何言うてんねん!?俺は小春一筋やで!」

「今更隠さなくても良いわよ♪」


小春の物言いに一氏は顔を赤くした。
それを見れば、誰しも一氏の気持ちが分かるだろう。小さな謙也でさえ。


「ユウジなんかに渡さへんからな!」

「なんかとはなんや!…っせや、まだ好きや!文句あんのか!?」

「有りまくりや!蔵だけでも手強いんやぞ!」

「相変わらず白石も呼び捨てかいな…」


一氏は、親で有りながらも呼び捨てにされる蔵ノ介を哀れだと思った。


「ケン坊は人気者ねぇ。ウチも人のことは言えへんけどVv」

「「Σえっ!?」」


まさかの小春の発言に謙也と一氏の声が重なった。特に驚いたのは一氏。
中学時代にも小春にはそのような態度やそぶりは見られなかったからだ。


「勘違いしたらあかんよ?私の好きは恋愛とは別よ♪だから安心して♪」

「安心って…『一氏はん、小春はん』師範」

「石田先生」

「そろそろ昼寝の時間やで、いつまでも遊んどったらあかんで」


石田銀。彼もまた、中学時代のチームメイトであった。一氏の師範と言う呼び方もその頃からのものらしい。


「あら、もうそんな時間?謙也くん、お部屋に行きましょう」

「おん。石田先生、ユウジ、またな〜」

「またな」

「やから先生や言うてんねん!」


小春に手を引かれ、謙也は石田と一氏に手を振った。しかし、やはり呼び捨ては変わらなかった。


「そういえば、何話しとったんです?」

「ぉへ?」


突然石田に声を掛けられ、反応の遅れた一氏は素っ頓狂を越える奇声を口にしてしまった。


「なんや、聞かれたらあかん内容やったん?」

「いや、そういう訳やないんやけど……あれや、健二郎の話しとったんや」

「小石川はん?」


石田は、何故今その話が出るのか、という顔をしていた。それは一氏にも伝わったようだ。


「ほら、健二郎は白石と夫婦で謙也もおるやん?」

「おるな」

「で、それが分かっとるんに、俺はまだ健二郎が好きやって小春が…」

「好きやないんか?」

「……好きやけど…」


否定はしているが嘘ではないため、一氏は言葉を濁した。


「やったらそない戸惑うことやない。
誰が誰を好きでもえぇとワシは思うで」

「師範……やっぱ大人やなぁ」


何か自分の中の突っ掛かりが取れたような気がした。

「やっぱ俺、健二郎が好きや」


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