※捏造家族が出てきます。




















大阪四天宝寺中の正門前、一人の少女が立っていた。

「やっと来れた…今会いに行くさかい、待っとってね!」

勢いそのままに、少女は校門をくぐった。

時間は放課後で、校舎からはぞろぞろと生徒が出てきていた。
少女はすぐにそんな生徒達の注目を浴びた。
少女が四天宝寺の生徒では無かったからだ。
少女の制服は立海のもので、スタイルや顔立ちも良く、ロングヘアーをなびかせていた。
所謂美少女と言うやつだ。

「なんやねん、人のことジロジロ見よってからに」

周りの視線を多少なりとも気にしながらも、少女は歩みを進めた。
しかし…

「おらへん!」

誰かを探しているようだが、見つからないらしくイライラしていた。
そこへ…


「君、立海の子ぉやんな。ここで何しとるん?」

「誰や、あんた」


振り返った少女の視界に入ったのは、包帯を巻いたテニス部部長。


「(うわっ、ごっつ美人やん…って、ちゃうやろ!俺には健二郎がおんねん!)俺は白石蔵ノ介や、君は?」

「(白石…)ウチは玖穏(くおん)ところであんた、テニス部の人なん?」


玖穏は白石のテニスバッグを見て、再び白石に視線を戻した。


「おん、そやけど、テニス部になんか用か?偵察ならお断りやで」

「そんなんちゃうわ、偵察も頼まれたけど、面倒やし断ってん。
ウチが用があるんはテニス部やのうて、テニス部員」


そこで白石は少し顔を歪めた。
氷帝ほどではないが、四天宝寺のテニス部員も人気がある。
だからマネージャー等もとってはいない。
部長である白石は、条件的に部員に用がある=男目的と思ってしまった。


「…うちの部員になんの用や?」

「そんな怖い顔せんといてぇな。ウチはただ、兄ちゃんに会いに来ただけやねん」

「兄ちゃん?」


予想に反した答えに、思わず間抜けな声が出てしまった白石。
そんな白石を気にした様子もなく、玖穏は話しを続けた。

「ウチの兄ちゃんが四天宝寺でレギュラーしとるて、幸村が教えてくれてん。
やからウチ、会いたくて…」

シュンとなる玖穏に白石は申し訳なくなった。
ただ兄に会いたいと言う純粋な思いを悪くとらえてしまった。
白石は、ヨシッと玖穏の腕を引いた。


「ちょっ、どこ行くん?」

「決まっとるやろ、テニスコートや」

「えっ…」

「会うねやろ?兄ちゃんに」

「おん!」


嬉しそうに頷く玖穏に白石も自然と笑顔になった。



パシャッ!

そんな音には二人とも気付かなかった。



「ここや」

「ごっつデカイなぁ」


庭球部と書かれた札の掛かった扉を見て、玖穏は少しのけ反った。

「まぁな、さぁ中入り」

白石が扉を開けると、一面のテニスコートにテニスボールの音が乱舞していた。
白石によれば、千歳は放浪、小春と一氏はお笑いライブの練習、石田は渡邉に呼ばれているということで、人数は少し少なかった。


「で、お前の兄ちゃん、名前は?」

「あぁ、兄ちゃんh『あーっ!白石がねーちゃんつれとるー!』はい?」


突然大声で叫ばれて、白石と玖穏に注目が一気に集まった。

「なぁなぁ!ねーちゃん白石の彼女なん!?」

興奮気味に玖穏の腕を引くのは金太郎。


「こら金ちゃん!
この子はお客さんや。失礼なこというたらあかんで」

「えー…彼女とちゃうの?」

「残念やけどちゃうで。
初対面やしな」


金太郎は、ちぇーと言いながらどこかへ行ってしまった。
苦笑する玖穏だが、白石は満更でもなさそうな顔をしていた。
しかし…


「白石!避けぇ!!」

「へっ…(ビュッ!)っ!」


謙也に叫ばれて、ソチラを見れば、顔の横を二つのボールがもうスピードで通過した。
ボールが当たった後方の壁には、黒く後が残った。
オイル切れのロボットのような動きで、ボールの放たれた方を見ると、

「け、健二郎…?」

ラケットを握り白石を睨む小石川と、同じようにラケットを握る財前がいた。

「部長〜、避けたらあかんですやん」

間延びした声で言う財前だが、白石は顔を青くして冷や汗を流していた。


「大丈夫か?」

「あ、あぁ平気や」


屈んで白石を覗き込む玖穏に笑顔で答える白石。
その様子を見た小石川は…


「光〜、顔面狙うてえぇか?」

「むしろお願いしますわ」

「ほんなら遠慮なく」

「Σ待て待て待てっ!俺の許可は?!」

「問答無用や」


慌てる白石、聞く耳持たずの小石川。
小石川がボールを打とうとしたとき…

「見つけた!」

黙って白石と小石川を見ていた玖穏がイキナリ小石川に飛び付いた。


「な、なんやねん?!」

「やっと会えた!
メッチャ会いたかったわ♪」


小石川に飛び付いた玖穏は飛び切りの笑顔を向けた。
小石川は少し顔を赤らめたが、それ以上に混乱していた。
そして、玖穏の顔をしっかりと認識すると……崩壊が始まった。

「まさか、玖穏の兄ちゃんって…」

白石は信じられない、という顔をしたが、それ以上に小石川が口をパクパクさせて、声にならない驚きをしめしていた。


「部長、誰ですの?副部長に馴れ馴れしいあのメス豚は…」

「光落ち着け!けど、ホンマに誰なん?
あの制服、立海やろ。わざわざ神奈川から何しに来てん」

「え、あぁ、うちのテニス部レギュラーに兄ちゃんがいる言うてな、やから会わせたろ思て連れて来てん」

「兄ちゃん…副部長、妹いてるんですか?
つか、妹のがデカイですやん」


財前に聞かれ、白石は少し顔を歪めた。


「いや、聞いたことないねん…兄ちゃんと弟がおるんわ知ってんねん。
けど!健二郎が俺に隠し事なんてありえへん!」

「今すぐそのおめでたい頭にボール、ぶち当てまっか?」


白石の惚気にイラッときた財前は近くに転がっていたボールを拾おうとして、寸前で謙也に奪取された。


「チッ…」

「そこ!舌打ちすなっ!
白石、とにかくあの二人なんとかしろや。
やないと次は光と一緒に俺も打つで」

「Σなんでやねん!?」


不本意ながら、財前と謙也、二人から標的となってしまった白石はトボトボと小石川に歩み寄った。

「健二郎、そのk『嫌や!離れぇ!てか神奈川帰れ!!』…は?」

小石川は泣きそうな顔で、自分にしがみつく玖穏を引き離そうとしていた。
白石は頭に?しか浮かばなかった。
玖穏は兄に会いに来た、そしてそれは小石川だ。見ている限りでは。
だから分からなかった、小石川があそこまで嫌がる理由が。


「なんでよ〜、せっかく会いに来たんやから再会を喜んでくれてもえぇやんか♪」

「なんで俺がおどれとの再会を喜ばなあかんねん!?
俺は望んでへん!!」


笑顔で擦り寄る玖穏に、本気で嫌がる小石川。
とりあえず、白石は小石川に事情を聞こうとしたが…

「白石ーっ!助けてくれ!
もう嫌や…帰る、帰らせてくれぇぇぇっ!!」

今までに見たことがないほどに小石川が叫んでいた。
最早泣き出している。

(可愛い可愛い可愛いっ!コイちゃん泣いとる!!)

しかし白石は助けるどころか、泣いている小石川を眺めだした。
顔がニヤついていて、見事に残念な男前が出来上がった。


「そない嫌がるんやったら、アイツにも来てもらおか?」

「そ、それだけは堪忍してぇな!!
一人でもしんどいねん!」


アイツと聞いた瞬間、小石川の顔が一気に青ざめた。

「分かればえぇねん♪
もぅ、ずっと連絡とかしてくれへんから心配でしゃーなかったんやで♪」

ニコリと笑った玖穏に近付き、白石も同じくニコリと笑った。


「良かったなぁ、兄ちゃんに会えて」

「おん!俺、ホンマに嬉しいわ♪」


「Σ俺っ?!」

「何をそんなに驚いてんねや?
俺って言うたらおかしいんかいな?」

「やって! さっきはウチって…え? えぇ?」


驚きを隠せない白石はまじまじと玖穏の顔を見つめた。


「…ん?どっかでみた…」

「長ったらしいっスわ…部長ホンマ役に立ちませんね、時間かかり過ぎっスわ…
アンタ誰ですの?俺の副部長にベタベタ触んなや」


白石があまりにもタラタラしていて、耐え切れなくなった財前が小石川と玖穏を引き離した。


「光っ!」

「もう大丈夫っスわ(可愛い可愛いっ!)」


イツモの男前ぶりはどこにもない小石川に、また新たに残念な男前が一人出来上がろうとしていた。


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