ザーッ…


「……今日は雨か…」

夜中にふと目が覚めた。
ボタボタと地面に落ちる雨音が耳に届いたから。
雨は好きだ。
その音で全てを掻き消してくれるから。
その流れで全てを洗い落としてくれるから。
嫌なことがあった時や、モヤモヤした時は意味もなく雨に打たれていたい。
今は夜中で、わざわざ外に出て雨に当たる気にはなれないけど、カーテンを開けて窓に耳を付ける。
雨で冷やされて、ヒヤリとした窓はなんだか心地がよかった。
ピチャピチャとワンバウンドする雨音や、ボタボタと直接地面に落ちる雨音…不規則に耳に届くソレは、まるで俺の気持ちを表しているみたいだった。
お前を想う、俺の気持ちを…



『今日も赤也は遅刻かな?』

『まったく、たるんどる!』

『クスッ あまり叱ってやるなよ?』

『…甘やかすのは性に合わん』


厳しくても、ソレは愛情の裏返しなんだよね?
そんな優しいところが凄く好き。



『真田、今度は俺の相手を頼むぜよ』

『よかろう、叩き潰してくれるわ!』

『ピヨッ』


強気で勝ち気で、テニスを含め何事においても真っ向から向かっていく。
そんな、真っすぐで自分にも他人にも正直なところが凄く好き。



『蓮二、少しいいか?』

『あぁ弦一郎か、なんだ?』

『明日の練習メニューなんだが…』


部活のために頑張ってくれてる。
そんな頑張り屋なところが凄く好き。
でも…



『蓮二』

『あぁ、蓮二』

『蓮二!』


柳と話しをするお前が、俺は凄く嫌い。
柳とお前は互いを名前で呼び合う。
柳は俺を名前で呼ぶ。
俺はお前を名前で呼ぶ。
だけどお前は俺を名前では呼ばない。
【幸村】としか呼ばない…
だから俺は、柳と話しをするお前が凄く嫌い。



直接地面に落ちる雨音は、俺がお前を好きな気持ち。
ワンバウンドする雨音は、嫉妬や独占欲が混じった、大好きなお前を否定するひねくれた気持ち。
そんなひねくれた気持ちを持ってる自分が凄く嫌い。

窓から耳を離して、手の平で耳を包み込む。

「…冷たい…」

そんなに長い時間、窓と密着させていたわけでもないのに、とても冷たい感覚が手の平の温もりを感じて、熱を奪った。

「……会いたいな…」

こんな夜中に、ましてや土砂降りの中、会いたいなんて言っても会えるわけがない。
会いたいって言葉も、段々と激しくなる雨音に消されていく。

「この雨じゃ朝練は無理だな……ってことは、朝になってもお前に会えないんだ…」

そこで俺は初めて気が付いたんだ。

「俺は……雨が凄く嫌いだ」

ついさっきまで好きだって言ってたくせに、お前に会えないと分かると、途端に嫌いになった。
少しでもお前と一緒にいたいのに、雨はその大切な時間を奪う…
どうして……あぁ、そうか…

「俺が雨を嫌いなように、雨も俺を嫌ってるんだ」

だから俺と彼の邪魔をするんだ。
グッと握った拳で、目の前で雨に打たれる窓ガラスを割ることが出来たら、どんなに気分が楽になるんだろうか。
だけどそれが出来ないのは、俺が雨を嫌いになりきれないから…

「そういえば、お前も雨は嫌いだと言っていたね」

あれは前に雨が降って、二人で帰った時…



『雨は好かん』

『どうして?俺は結構好きなんだけど』

『雨音がうるさくて、夜寝付けぬのだ。
それに何より練習が出来ん』

『フフッ いかにもらしい答えだね』


そう笑った時、わずかに赤らんだ顔を俺は忘れない。
その後、小さな声で言ったことも。


『それに、だな…雨だと傘をさす』

『傘をさすのが嫌なのかい?』

『そうではないが…』

『なら、どうして?』

『……ぉ、お前の顔が、傘で遮られて…よく、見えん…』

『……ゴメン、今のもう一回言って…!』


そう言ったら、顔を真っ赤にしていつもみたいに、たるんどる!って足早に俺から離れて行った。
俺もすぐにそれを追い掛けた。
自分の傘を畳んで、二人で一つの傘に入った。
最初は驚いた顔をしたけど、別段何を言うまでもなくそのまま二人で歩みを進めた。
少し肩が濡れたけど、そんな些細なことは気にならなかった。
俺はこの時、今まで以上に雨が好きになったんだ。
二人で一つになれたように感じるから。
一つの傘に入っている間は、まるで世界から切り取られたみたいに二人だけの空間があったから。



「あの時間は好き……でも、一緒にいる時間が減ったら意味がないんだ…!」

単なる願望なのか、それとも悲痛な心の叫びなのか…
自分でも分からないソレは、なおも激しさをます雨音に掻き消されていく…







雨音の狂想曲

君は俺と同じ想いを抱いているだろうか。


END

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