ガチャッ


「健二郎?」

「ゆぅちゃ!」


俺が顔を出すとすぐに駆け寄って来た。
因みに部室一番乗りは俺や。
白石は『部活やぁぁぁぁ!』って叫びながら出てきたところを殴って黙らして来た。


「おぉ、えぇ子にしとったか?」

「おん!な、ちぃちゃ!」


健二郎が千歳の方を見ると、千歳は部室の隅で青うなって、なんや俺見て震えとった。


「千歳、どないしてん、そない青い顔して」

「ななっなんでもなかよ!
健二郎はほんなこつえぇ子だったばい!」

「面倒見てくれておおきにな」

「こ、これくらい朝飯前ったい!」


なんでどもんねやろ?
俺褒めてんのに……あ…アレか、昼前のメールか!


「千歳、もぅ怯えんなや。
健二郎が無事やったらお前を殺る必要無いからな」

「Σ今サラリとすごかこつ口にしたばい!」

「気にしたらあかん!」

「Σ逆ギレ!?」


あぁ、もう、うるさいねん!
お前にかまっとる暇ないねん!……って…


「健二郎?」

「………」


健二郎を見ると黙りこくって俯いていた。


「健二郎、どないした?」

「…っ、いき、くるし…!」


顔を上げた健二郎の呼吸は荒くて、着ていたユニフォームをクシャクシャに握っていた。


「っ! 千歳、白石呼んでこい!」

「分かったばい!」





「っはぁ…ゅ、ちゃ…!」

「喋るな!」


千歳を行かせてからも健二郎の呼吸は荒くなる一方で、顔色もようない。

「どないしたらえぇねん…」

何をすればえぇんか、何をしてやれんのか分からん。
分からんくて、分からんけど、目の前の小さな身体を抱きしめて背中を撫でた。


「大丈夫や、俺がいたるから」

「っ…はぁ、はぁ……ぅぐ!」

「健二郎?…健二郎!!」


腕の中の健二郎の身体がビクリと震えて動かなくなった。

「おい、健二郎!」

何度名前を呼んでも返事をせぇへん。顔色を見ようと身体を放すと…

「けん…っ!」

健二郎の身体が光に包まれた。
眩し過ぎて目が開けられへん。


バンッ!


「コイちゃ、っ!」

「なんね、こん光は…!」


千歳と白石が来たんは分かる。
でも、二人も目は開けられんようやった。


スーッ…

光がおさまりだすと、光の中心に健二郎の姿が見えた。
さっきまで一緒にいた子供の姿やなく、中学三年の小石川健二郎が。


「ん……っ…」

「コイちゃん!」


光が完全に消えると、真っ先に白石が健二郎に駆け寄った。


「白石、俺…一体…」

「もしかして、覚えてへんの?」

「何があったん?
確か、オサムちゃん探しに行って……そこから記憶があらへんねん」


健二郎は幼児化しとる間のことは覚えとらんようやった。
なんや、胸が苦しかった…


「健二郎、ちゃんと戻ってほんなこつ良かったばい」

「戻って?俺、ほんまになにしとってん」

「コイちゃん、不二君からもろた液体飲んだやろ?
あれで幼児化しとったんやで。
ほんま、メッチャ可愛かってんから♪」

「千歳、すまんけどコイツつまみ出してくれ」

「了解ばい」

「Σちょっ、なんでなんコイちゃん!?」

「はいはい、おとなしくすっとよ〜」

「コイちゃぁぁぁぁん!」

パタンッ


白石は千歳にズルズルと引きずられ連れ出された。
今の部室には俺と健二郎の二人きり。

「良かったな小石川、ちゃんと戻れて」

元に戻ったから、と思って苗字呼びに直した。

「!……ユウジ…」

けど俺が呼んだ健二郎は不思議そうな、悲しそうな表情をした。

「小石川?」

俺も不思議に思って近づいた。
でも健二郎の言葉に心臓が止まるかと思た。


「もう…『健二郎』って、呼んでくれへんの?」

「! お前、なんで…」


さっき白石には記憶がない。って言っとったはずやのに…

「白石に言うたの、嘘なん?」

聞けば健二郎は首を横に振った。


「いや、嘘ちゃうよ。
実際、液体飲んでからの学校の記憶はない」

「学校のって…」

「ユウジの家におる時や、意識だけ中三に戻ったんわ」


健二郎の言葉に、俺の頭には嫌な予感しか浮かばんかった。


「い、いつからや?」

「…ユウジが、俺に、キス…した時…」


やっぱりか!?
嫌な予感的中…あぁ俺嫌われた…
ジ・エンド・オブ一氏ユウジ…


「スマンかった…俺のこと、嫌ってえぇで」

「なんで俺がユウジを嫌いになるん?」

「………へ?」


健二郎の台詞は俺の予想とまったく別物。
しかも疑問形。


「やって俺、お前の気持ち考えんと、キスして満足して…」

「…なら」


突然立ち上がって近づいてきた健二郎。
俺の目の前に立って、俺の顔を健二郎の手が包んだ。

「こい…!」

瞬間、口に柔らかい感触がした。


「これでえぇ?」

「な…なんで…」

「俺も、ユウジが好きや」

「Σっ!」


今初めて経験した。
息を呑むってこういうことなんか。


「嘘や、ないんか?」

「お前が本気なら、な」

「…っそんなもん、決まっとるやないか!」


いたずらっぽく笑う健二郎にキスをした。
『大好き』の言葉を添えて。







四天宝寺の激騒

新たな恋が生まれた一騒動。


END

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