目覚まし時計が鳴る前に目が覚めた。鳴ったところで、どうせ彼は簡単には目を覚まさないけれど、少しでも眠りの邪魔にならないに越したことはない。
そっと体を起こす。昨日の晩の、飢えた獣のような目は閉じられ、汗ばんだ身体から立ち上る色香も消え、隣で眠る彼は静かに寝息を立て、まるで子供のようだ。
ここに居てくれないかと彼は言う。考えておきますと笑う私の答えが決まっていることを知っている。せめてのさよならすら言えない残酷な甘さに溺れているだけなのだ。
そっと彼の髪を撫でる。頬に触れる。微かに身動ぐその様子ですら、どうしてこんなに愛おしい。微かに顰められた眉間に唇を落とす。
ベッドから降りて、足音を立てないように服を拾い上げ身に付ける。私がここに留まることで、彼が犠牲にしなきゃならないものはきっと多過ぎる。
彼の負担にだけはなりたくなかった。
私はつまらない執着を抱いて、彼の煙草を一本抜き取り、そのままそっと立ち去るのです。
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