「スイーツ男子…」
「この程度はさして甘くない」
「あー、向こうのってすごそう」
「砂糖を齧ってる」
「そこまでは無理だなあ」
クリームの入ったドーナツをばくばくと3口くらいで食べてしまう彼がなんだか可愛い。
「あ、」
ペロリと口の端を舐めたけれど、まだ白いクリームが残っていて、つい手を伸ばす。指先でクリームを掬うと、その指をチュ、と舐めた。甘い。
「ん?」
見ると、秀と目が合う。彼は少し驚くような顔をして、それから小さく笑った。
「何?」
「いや、何でもない」
「うそ!」
何でもないわけがありますか。じっと睨むけれど、彼は楽しそうにニヤつくだけだ。
「あまり見つめるな、キスしてしまいそうになる」
「なっ!」
なんて事を言うのか!私は咄嗟に視線を逸らし、それから誤魔化すようにドーナツを頬張った。もぐもぐと口を動かし、カフェオレで喉へと流す。
「ああ、」
彼はすっと私の顎に手を伸ばし、私の顔を上げさせた。ガタリと彼の椅子が鳴る。
「ついてる」
声が近い。顔も近い。彼は私の口の端をペロリと舐めた。
「甘いな」
それはドーナツがなのか私の油断なのか。私は口をはくはくとさせるだけで言葉を発せない。気付くと、周囲の視線が集まり、ざわ付いている。恥ずかしくて死ねる。早くこの場から離れなくてはいけない。
「お持ち帰りで…!」
私はガタリと席を立った。
「ドーナツをか?それとも俺を?」
秀は得意げにくすりと笑った。私は残ったドーナツを紙フキンにくるんで、それから彼の手首を掴んだ。
「どっちも!」
彼は欲張りなハニーだ、などと楽しげに笑うと、掴んだ手を繋ぎなおして、私達は逃げるようにその場を後にした。







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