遅めの出勤とは言え、連日の残業と曇天による頭痛によりやる気は全く出ない。安室さんのハムサンドですら持ち直せない。つらい。
「あれ、コナンくん。おはよう、今日は一人かい?」
「おはよう安室さん。昨日忘れ物しちゃって」
「ああ、あの筆箱かい?ちょっと待って」
安室さんが奥へ引っ込むと共に私は彼に声をかける。
「おはようコナンくん」
「あ、おはようございまーす」
はあ今日もなんて可愛いんだろうかコナンくん。
「ちょっとコナンくん、こっちへおいで。お姉さんに元気を分けて」
「へ?」
ちょいちょいとこちらへ手招きすると、コナンくんは不思議そうな顔をしてこちらへ近寄って来る。
私は席から立ち、近寄ってきたコナンくんを背負うランドセルごとぎゅっと抱きしめた。
「わわっ」
「はーーー癒しーーー」
慌てる様子すら可愛い。すぐ真っ赤になっちゃうおませさんなところも可愛い。今日はお休みしてコナンくんを攫ってしまいたい。
「お客さま、コナンくんがお困りのようですが?」
戻ってきた安室さんはその手にコナンくんの忘れ物であろう筆箱を持って仁王立ちしている。こちらの可愛い顔は全くもって台無しである。
「ちびっこの元気を分けてもらおうと思って」
私はコナンくんの後頭部のピョンとたった髪の毛をくるくると弄りながら彼を見上げる。
「同意を得てください。児童虐待で警察に突き出しますよ?」
「事件現場にこんな子供を入れる警察にこの程度で虐待とか訴えられたくないですう」
コナンくんはさりげなく私の腕の中から逃げ出して、ほっと息をついている。
「よくわかんないけど、お姉さんお仕事頑張ってね」
にっこりとコナンくんは私を見上げてかんわいく笑って、じゃあ僕遅刻しちゃうから!と安室さんの手から筆箱を奪い取るようにして受け取り駆け出していった。その様子まで完璧に可愛い。
「見ました…?あの笑顔…犯罪級の可愛さ…逮捕したい…」
「あなたが逮捕される側ですよ」
「じゃあ安室さんも同罪で」
「は、」
「コナンくんと仲良しな私に妬いてるんでしょー?」
くすくすと態とらしく口元に手を当て笑い、彼を見る。あんな、降谷の時の様な顔で私を睨みつけるなんて愛が深すぎる。
「何言ってるんですか」
彼はあくまで安室の顔を保ちながら、呆れた顔をした。
「そっちじゃありません」
「じゃあなに」
「もう出ないとまずいんじゃないですか」
「え?わ、本当だ!」
時計を見るとなかなか危険な時間になっている。遅刻はだめだ。そもそも上司が目の前にいて、言い訳もくそもない。
「お金、置いておきますから!」
金額ぴったりを伝票の上に置き、駆け出すと、ぐっと腕を引っ張られる。
「今晩は僕のことも抱きしめて下さいね?」
「っ!」
「癒して差し上げます」
耳元で囁き、にっこりと笑った彼にいろんな意味でぞわりとする。
「いってらっしゃい」
「ごちそうさまでした!」
手が離された瞬間に、逃げるようにポアロを出た。ああ、なんて心臓に悪い人だろう。駅まで走りながら、きっと余裕でほくそ笑む彼が見えるようだった。



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