あの人をどうにか出来るなんてかけらも思っていないのよこれでも、と彼女はごちた。
ウォッカはどう答えればいいかわからずに、そんなこと、と言いかけて、やめた。彼女は小さく微笑む。だけどどうにかしたいと思わせるから、不思議ね、と目を伏せた。
祈らせるような、魅力がある。それはなんとなく、わかる気がします、とウォッカは彼女を見る。
もしかしたらあなたなら、と心の中で何度も、今も、願ってしまう。けれど、誰にも踏み込めない、光の一筋も差さないあの闇に佇む男の姿は変わらないでいて欲しい気持ちもある。きっと、それは彼女も。だからこそ美しいのだと知っている。
届かないから、せめて見つめてしまうんだろう。闇の中で怪しく光るあの双眸を。簡単に指先からこぼれ落ちて行く銀色の糸を。
そして、あの方という漆黒の闇は彼を離しはしない。彼はその闇に抱かれて、離れはしないのだ。
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