ぼんやりと目が覚めて、また目を閉じる気にもなれずにそっと体を起こした。ジンは、まだ眠っている。寝顔は普段より少し幼く、なんだかかわいい。
最近になってようやくぐっすりと眠ってくれるようになって、私はひっそりと、随分嬉しい。眠る前に緩く編んだ髪は少し解れているのが色っぽい。
夢を見ているのか、髪と同じ透けるような銀色の長い睫毛が微かに揺れる。その血の賜物か白い肌はきめ細かく男性にしておくのが惜しいけれど、通った鼻筋や薄ピンクの唇、冷たい印象を覚えるほどの整った顔立ちや、ぼこりとした喉仏の凹凸や鍛えられた無駄のない筋肉や骨ばった指先を眺めながら、紛れもなく男性的であることは明白だ。改めて彼を認識して、なぜか私は勝手に胸を高鳴らせる。こんなに綺麗な人が私の好きな人で、そんな人と恋人で、その恋人は今無防備に私の目の前で眠っているのだ。堪らない愛しさと、誰に向けてかわからない優越感に浸る。
思わず口元を緩ませながら、頬杖をついて寝顔を眺めていると、彼の眉が顰められた。身動ぎ、真っ直ぐ上を向いて眠っていたのが、首を捻りこちらを向く。嫌な夢でも見ているんだろうか。
そっと、解れて頬にかかる髪を指先で避けた、その瞬間、彼の手がバッと私の手を取った。
「へっ、」
そのまま手を引っ張られ仰向けに転がされ、その上に覆いかぶさるようにジンがのし掛かる。ボフン、と頭のすぐ横に肘が置かれ、硬く冷たいものが顎に当てられる。驚いて目を見開いた私の視界には、どアップの不機嫌なジンの顔があった。一瞬の出来事だった。
「ジン、?」
彼は眉間に皺を深く刻み、微かに覗くグレーの瞳は鋭い。
「、」
微かに唇が動いた。寝起きで上手く言葉が出ないのか、言葉はなく唇は閉じられ、代わりに小さく舌打ちをし、向けられた銃口は逸らされ枕元に放られる。ジンは私の上から退く様子はなく、そのままそこに突っ伏した。びっくりした。
私はそのまま暫く動けず、鼓動の震えが収まるのを待つ。
「…ジン?」
ゆっくりと彼の髪を撫でる。寝惚けているのか、それに甘えるように首を動かし、頬をすり、と合わせる。…う、わ。私は声を上げそうになるのを口元を覆って抑える。なんだこれ、本当にジン?可愛すぎる。子供みたいだ。静かに、はあーっと息を吐いて平静を装うと、目の前の整った顔をもう一度眺めた。眉間の皺は消えている。
よかった、と少し安堵しながら、どうやって彼の下から抜け出そうかと考える。正直、重たくて苦しい。もぞもぞと彼を起こさないように気を付けながら、少しずつ体をずらしていると彼の腕が私を包み、横になった。
「ゎ、」
「にげるな…」掠れた声で言った。「ここにいろ、」
それは懇願の響きで、私は彼の顔を改めて見る。瞳は閉じられたままだ。また、微かに眉が顰められている。寝言だ。けれど、その言葉の重みに心臓をきゅっと掴まれたような気持ちになる。
私は彼の首元に腕を伸ばし、体をずらして、彼の頭を胸に当てて抱え込んだ。
「ずっとそばにいるよ」
髪を撫で、まるで子供にするようにとん、とん、と背中を叩く。もぞりとジンは私の胸に顔を押し付けて、それからまた寝息をたてた。腰に回された腕や抱えた眠気の熱が温かくて、とん、とん、と背を叩くリズムが途切れ、私もそのまま微睡みに落ちた。



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