「こんなとこで死んでたら襲われるぞー」
「うう」
ソファでだらける私を見兼ねて、ぷにぷにと指で頬を刺すのはスコッチだ。
「私を襲うほど女に飢えてるやつはここにはいない…」
「確かに」
「否定しない…」
「納得」
言いながら彼はじっと私を見ている。
「二日酔い?」
「違いますう。頭痛いのが治んないんですう」
態とらしく拗ねて見せると、彼は謎に持っていた冷えピタを差し出した。
「すこえもーん」
「てれれれってれー、ひーえーぴーたー」
「真顔」
「やるよ」
「生温い」
「人肌で温めておきました」
「さすが」
ぶにぶにとシートを触る私の手からそれを取り上げると、ビニールをめくってぴらぴらとしてから私のおでこに貼った。
「温もりが消えた」
「優しさシートだから」
「冷たいんだけど」
しかし気持ちいい冷たさだ。
「頭痛って頭が浮腫んでんだよ。それでちったあ良くなるといいな」
「すこえもん優しい」
「今更気付いたのか」
「や、全然知ってた」
ズキズキとまだ痛むけれど、無駄口を叩いていたら気が紛れて幾分かマシに感じる。目を閉じて、片手を眉間に乗せて一息つく。
「ライもバーボンも口は悪いし自分勝手だし、スコッチだけが癒し」
「ふうん」
「おや不服ですか」
「俺もわりと身勝手だけど?」
「えー?」
「こんな風に」
ぎしりとソファが軋んで、唇に何かが触れた。
「は、」
ぱっちり目を開けるといつもと変わらぬ彼がいる。
「え、今、え?」
「可愛くないなお前」
「なんかカニカマ当てられたとかじゃないよね」
「カニカマあ?」
「だって」
いや、だって。私は彼の服を掴む。
「もっかい」
「…は?」
「もっかいして?」
彼はじっと私を見てから、わしわしと私の頭を撫でると、そっと裾を掴む手を諌めるように取って離した。
「元気になったらな」
「してくれないと元気になれない」
「お前そういうのやめとけよ」
「なんで」
立ち上がった彼は傍から毛布を持ってきて私に掛けた。
「言ったろ。俺は身勝手だって」
「優しいのに」
「優しくできなくなる前にやめてんだよ」
スコッチはまたソファの横に座り込んだ。
「元気になったら続きもしてやるよ」
ぽそりと言った言葉に、思考が停止した。
「つづ、き」
「じゃ、大人しくしてんだぞ」
「う、うん」
そう言って部屋を出て行った。
わー。わー、スコッチって、あんなに男の人みたいな顔、したのか。
「はあずるいすき」
毛布の中で呟いて、とんでもない約束をしてしまったのでは、と薄っすらと気付きながら、頭の中に響く痛みから逃げるように眠りに落ちた。



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