「この間行ったビアガーデンでさ、ソーセージの盛り合わせ頼んでね、それマスタードが粒じゃなかったわけよ」
「聞いたわ」
「だからもう粒マスタードでリベンジしかないじゃんって話」
言いながら彼女はソーセージの袋をいくつもカゴに放り込む。粒マスタードの瓶は真っ先に手にしていた。それから、キリンラガーとアサヒスーパードライのハーフダース。
「ビアガーデンリベンジじゃねーのか」
「粒探してビアガーデン回るの面倒じゃん」
「ビアガーデンで萩原とかも誘えばよくね。付き合うだろあいつ」
「それな」
スーパーのレジに並びながら、近所だからって手を抜ききって緩んだ髪がひと束解けたのを眺める。
「ビアガーデンはさぁ、みんなの方が楽しいし、みんなで行くならちょっとおめかしするのが楽しいじゃん」
この女のオフを知る男がどれほどいるかは知らないが、こいつのオンモードは控えめに言っても詐欺だ。オフですらも顔がいいが、化粧をして人前に出るときの丁度いい具合のいい女っぷりは最早詐欺だ、とその変身ぶりにも慣れた俺だが未だに思う。
「そうじゃないわけ。私は確実に、粒マスタードでぷりぷりのソーセージを食べながらビールで喉を潤したいわけよ。何の気兼ねもなく、その旨さのわかるやつと」
とんとん、と俺の胸を指で叩く。あーね。心の中だけで頷いて会計を済ませる彼女を眺める。小銭を探していた彼女はふっと振り向き、100円ない?と言うので自分の財布を漁る。遠慮などこの距離にはない。
「冷房ちょっと上げるから」
ソーセージを一気に焼き皿に盛り、マスタードは小瓶から全て出す。彼女の目的はこれだけなので、まじでソーセージとビールだけだ。
「やばいうまそ」
「早くしろよ」
「陣平も楽しみじゃーん!」
うきうき顔でビールを開け、さあいざ、と言わんばかりに乾杯をした。



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