猛暑、大雨、頻発する地震。帰れなくなる前に帰りましょ、と向かった駅の電子掲示板には調整中の文字。
「おっわー」
「まじか」
「どーする?朝まで居酒屋?」
「カラオケにしよーぜ」
「んー、でも私眠いんだよなー」
「ホテル?」
「やだいやらしー」
無駄口を叩きながらひとまず自然と足は喫煙所へ向かう。
「そろそろ日本沈む?」
「ねーわ」
「なんで」
「俺ン友達で日本推し過激派がいるからそいつが沈ませないと思う」
「何者だよやばい友達いるな」
「ああ、あいつはやべぇぞ」
煙を吐きながら無駄口は続く。日本推しなら神々の気まぐれで沈んでもおかしくなさそうなことも受け入れそうだけどなあなんてぼんやり思う。
「陣平、私歩いて帰るわ」
「は?お前んちそんな近くねーべ」
「でも一時間半とかで帰れるしいけるっしょ」
ほらと携帯の画面を見せる。いやあ便利な時代になったもんだよ。
「じゃ俺も行くわ」
「は?」
「危ねえだろお前一応見た目は女なんだから」
「うち男子禁制だから」
「は?」
「嘘だよ泊まってきなよ」
「は?」
「えっ何が不満なの」
「男簡単に泊めるとか言うなよ馬鹿か?」
「簡単には言ってないんだけど」
喫煙所を出てすでに帰路を歩んでいるところで陣平は急に足を止めた。隣にいた陣平の姿が消えて振り返るとなんと間抜けなお顔で。
「はーあ?」
悪態をついた。
「いやいやだって陣平だよ?」
「簡単に言ってんじゃねーか」
「深刻に言えばいいのかよ」
「おう言ってみろよ」
彼はまた足を進めて、私たちはまた肩を並べて歩き出す。
「じゃあ日本沈没するとしてよ」
「なんでそうなる」
「何でもいいの、明日世界が終わりますでもいいんだけど」
「ああ」
「今あなたは何をする?」
「何だそれ」
「私はあんたに告白をする」
「、は?」
たらたらと歩く足は今度は止まらず、真っ直ぐ前を見る私を隣からの真っ直ぐな視線が刺す。
「だから別に簡単に言ってないって」
「…お前それはずるくねーか」
「ないない。だって日本は沈まないし世界は終わらないからね」
「それなら俺は」言うと彼は私の腕を取って引き寄せると、そのまま私の唇を自分のそれで塞いだ。「こうする」
にっと笑った陣平の顔の良さが腹立たしい。
「ずるいのはどっちだ」
「おあいこだろ」
「送り狼」
「うっせーな、送ってくんじゃなくて、一緒に帰るんだよ」
「私ん家なんだけど」
「泊まっていんだろ?」
「明日世界が終わるならね」
「じゃ、一緒に世界の終わりを待とうじゃねーか」
下らない無駄口は止まらないまま、降り続く雨も止まないまま、私たちは手を繋いだまま、二人並んで同じ場所へと歩みを進めた。
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