「うわあ。イケメン。顔がいいわ。大店の若旦那だわ。よ、道楽者!」
「ほら俺どうしても気品とか出ちゃうから。方々で女の子たちが俺のこと呼んでるから仕方ないよねー」
「わー和服でも隠しきれないチャラさ!つらい!」
けらけらと彼女は萩原とイチャついている。何が大店の若旦那だ、いいとこで町の輩だろう。自分のことを省みずに心の中で悪態をつく。
「君も浴衣似合うねー。日本のエロはうなじだよなやっぱ。あ、髪ちょっと解けてきてる、」
すっと手を伸ばしかけた萩原より先に、彼女の簪を引き抜いた。纏められていた髪がぱさりと解けて背中に流れる。
「ちょっと陣平!」
俺はそのまま簪を懐に入れて踵を返す。どこ行くの、返して、と彼女は俺を追って小走りに駆け寄ってくる。
「一緒に回んないの?」
「二人で行けよ」
「何拗ねてるの」
別に拗ねているわけじゃない。ただ目の前で他の男と楽しそうに褒め合っているのが気に食わないだけだ。
「あの色男を連れて歩けよ」
ああ、煙草がもうない。買いに行こう。苛立ちが募る。チッと舌打ちをすると、裾を弱々しく引っ張られる。ああ、くそ。
「陣平も一緒じゃなきゃやだ」
チラリと振り向いても、俯いた彼女の表情は見えない。
「散々褒めてたじゃねーか、俺に目もくれず」
「……、直視できないんだもん」
「あ?」
「かっこよすぎて直視出来ないって言ってるの!」
友達にはいくらでも言えるけど、自分の恋人にかっこいいとか似合ってるとかめっちゃ好きとか恥ずかしいじゃん、と小さく早口で言う。頬に手を伸ばし軽く上を向かせると、彼女は赤い顔をして目をそらした。はあまじで可愛すぎかよ。
俺は彼女の手を取りぐんぐんと人混みを縫って進む。祭りの喧騒を抜けて路地へと入ると、彼女を壁側に追い込み何も言わせず唇を塞いだ。頬に張り付く髪を指先でよける。
「っ、じんぺ」
「悪いな。祭りを楽しむ余裕ねぇわ」
「え、」
物言いたげな彼女の唇を、再び塞いだ。
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