酒と一緒に、妙な薬でも盛られていたんだろう。薄っすらと気分の悪さを抱えながらも、酒と薬に酔った頭の片隅では、冷静にタイミングを計っている。
ホテルの高層階。壁一面の夜景。趣味の悪いシャンデリアを見上げながら、私の上にその男が乗った。
さあ、ここしかない、と思ったそのまさに今。窓ガラスを撃ち抜く音、男の脳天をブチ抜く弾丸、飛び散った血がベッドに散る。赤黒い血が頬にかかった。ぐっと指先で拭い、ぐっと胃から迫り上がるものを飲み込み、ゆっくりとベッドを降り、乱れた服はそのままに上着だけ羽織、部屋を出た。途中、白々しい労いの言葉とともに差し出されたバーボンの手を払った。ああ、くそ。気持ち悪い。冷や汗が止まらない。シャツが肌に張り付く。
スコッチからミネラルウォーターを受け取って一気に飲む。車に乗り込む。途中、ライを拾う。
「きもちわる、」
窓を全開にして風に当たりながらも、男の醜い動物的な舌舐めずりとアルコールの匂いと血の色が眩ませる。灰色の街を抜ける。耐えられなくなって、手の仕草だけで停めてと合図すると、彼は問答無用で悪びれなく急ブレーキをかけた。最悪だ。この男のこういうところが嫌いだった。
車を降りて、路地の出来るだけ奥まで歩いて壁に手をつく。
「う、」
気持ち悪さが、喉元から中々出てこない。頭を下げるが、唾液だけがだらしなく垂れる。
「力を抜け」
「、ライ」
彼は後ろから私を抱えるようにして、片手でみぞおちをグッと押し、もう片手の指先を私の口内へ突っ込むと舌の根元へ押し込んだ。
「う、え」
一気に吐き気が押し寄せる。一瞬で指は抜かれて、口元からは吐瀉物が溢れた。びちゃびちゃと足元に濁った液体と形を失った、豪華な食事だったものが溜まる。
「っ、」
「いい景色だな」
「悪趣味」
地面に転がり落としたミネラルウォーターのボトルを拾い上げ、口の中を濯いで吐き捨てる。ライは私の顎を取り、親指で濡れた唇をやけに優しくなぞった。
「何」
「いや」嫌な笑みを口元に浮かべる。「その顔があの男を誘うのかと、納得していたんだ」
「、」
私はじっとライを見上げる。肯定も否定もしてたまるか。ライは、そのまま私の目元に唇を寄せて、遊ぶように私の眼球をひと舐めすると、動じない私を鼻で笑ってその手を離した。



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